墜落・転落事故はなぜなくならない?最新労災統計から見る現場安全

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建設現場では、朝礼やKY活動、安全パトロールなど、日々さまざまな安全対策が行われています。

足場には手すりが設置され、墜落制止用器具の使用も定着してきました。法令改正によって足場の安全基準も強化されています。

それでも、建設現場から「墜落・転落事故」がなくなったわけではありません。

厚生労働省が2026年5月に公表した2025年(令和7年)の労働災害発生状況を見ると、全産業の労働災害による死亡者数は700人でした。

これは過去最少です。

一方、建設業の死亡者数は214人で、業種別では依然として最多でした

さらに建設業労働災害防止協会の統計によると、そのうち「墜落」による死亡者は91人。建設業の死亡災害全体の42.52%を占めています。つまり、建設業で亡くなった人のおよそ5人に2人が墜落事故によるものなのです。

安全設備やルールがこれだけ整備されているにもかかわらず、なぜ墜落・転落事故はなくならないのでしょうか。

今回は最新の労災統計をもとに、墜落・転落事故が繰り返される背景と、施工管理者が現場で改めて確認しておきたいポイントについて考えます。

建設業の死亡災害は減っている

引用:令和7年における労働災害発生状況(確定値)【厚生労働省】

まず、長期的に見れば建設業の労働災害は減少しています

建設業労働災害防止協会によると、建設業の死亡者数は、

  • 2019年:269人
  • 2020年:256人
  • 2021年:278人
  • 2022年:281人
  • 2023年:223人
  • 2024年:232人
  • 2025年:214人

となっています。

2025年の214人は、前年の232人から18人減少しました

休業4日以上の死傷者数についても、2024年の13,849人から2025年は13,437人へ減少しています

安全設備の進化や法改正、現場での安全管理の積み重ねによって、建設業全体としては確実に改善しているといえるでしょう。

しかし、問題は事故の中身です。

建設業死亡事故の4割以上が「墜落」

2025年に建設業で発生した死亡災害214人を事故の種類別に見ると、「墜落」が91人で最も多く、全体の42.52%を占めています

工事別では、

  • 土木工事:31人
  • 建築工事:45人
  • 設備工事:15人

でした。

建築工事に限って見ても、ビル工事14人、木造建築工事12人など、さまざまな現場で発生しています。

また、全産業で見ても2025年の事故の型別死亡者数は「墜落・転落」が186人で最多でした。

休業4日以上の死傷者についても、墜落・転落は20,864人に上っています。

つまり墜落・転落事故は、決して一部の特殊な現場だけで発生している事故ではありません。

建設現場にとって、今も最も警戒しなければならない事故の一つなのです。

なぜ墜落・転落事故はなくならないのか

「高い場所では安全帯を使う」

「足場には手すりを設置する」

「開口部には養生をする」

こうした基本的なルールを知らない施工管理者や職人はほとんどいないでしょう。

それでも事故が起きます。

その理由を考えるうえで重要なのは、墜落事故を単純な「本人の不注意」で終わらせないことです。

理由1:「足場から落ちる」だけが墜落事故ではない

墜落事故と聞くと、高層ビルの足場から作業員が落下するような事故を想像する人も多いでしょう。

しかし、実際の墜落・転落事故の発生場所はもっと幅広く存在します。

例えば、

  • 屋根
  • 足場
  • 開口部
  • はしご
  • 脚立
  • 作業床
  • トラック
  • 建設機械
  • 法肩

などです。

特に注意したいのが、はしごや脚立など比較的低い場所からの転落です。

これくらいの高さなら大丈夫

少しだけだから

という感覚が事故につながることがあります。

東京労働局が公表した2025年9月末時点の建設業の死傷災害では、墜落・転落181件のうち、2m以上からのものだけでなく、2m未満の高さからの事故も多数確認されています

高さが低いから重大事故にならないとは限りません。

頭部を打ったり、コンクリートや資材の上に落下したりすれば、1〜2m程度の高さでも重大災害につながる可能性があります。

理由2:「ほんの数分の作業」で安全対策が省略される

墜落防止設備を準備して安全な作業環境を整えるには、どうしても手間がかかります。

そのため現場では、

これを一個取り付けるだけだから

5分で終わるから

わざわざ足場を組むほどでもない

といった判断が生まれることがあります。

しかし事故は、作業時間の長さとは関係なく発生します。

むしろ「すぐ終わる」と考えている作業ほど、作業計画や危険予知が簡略化されてしまう可能性があります。

施工管理者として重要なのは、

「何分作業するか」ではなく「落ちる可能性があるか」で判断することです。

短時間作業だから安全対策を簡略化するのではなく、その場所にどのような墜落リスクが存在するのかを確認する必要があります。

理由3:現場は毎日変化する

工場などの固定された職場と建設現場との大きな違いが、作業環境が日々変化することです。

昨日まであった足場が今日は撤去されている。

新しい開口部ができている。

資材搬入のために手すりが一時的に外されている。

工程の進行によって作業動線が変わっている。

建設現場では、このような変化が毎日のように発生します。

労働安全衛生規則では、作業の必要上、足場の墜落防止設備を一時的に取り外した場合、必要がなくなった後は直ちに元の状態へ戻すことなどが定められています。

しかし実際の現場では、

「誰かが戻すと思っていた」

「次の業者も使うと思った」

「外したことが監督まで伝わっていなかった」

という情報共有のズレが起こる可能性があります。

建設現場の安全管理では、設備を設置した時点だけでなく、現場の状態が変化した瞬間を管理できるかが非常に重要です。

理由4:「慣れ」が危険に対する感覚を鈍らせる

経験豊富な作業員ほど安全に作業できる場面は多くあります。

一方で、長年同じ作業を繰り返すことで、

「いつもやっているから大丈夫」

「今まで落ちたことがない」

という慣れが生まれる場合もあります。

例えば、幅の狭い梁を渡ることも、経験者にとっては日常的な動作かもしれません。

しかし、「できること」と「安全であること」は別です。

事故が起きなかった経験が積み重なるほど、危険な行動がいつの間にか「普通の作業」になってしまうことがあります。

だからこそKY活動や安全パトロールでは、「ルールを守っているか」だけではなく、

現場の中で当たり前になっている危険行動がないか

という視点も必要になります。

理由5:建設業の高齢化

もう一つ無視できないのが、建設業で働く人の高齢化です。

建設業労働災害防止協会がまとめた高年齢就労者に関する報告書では、2019年から2024年までの高年齢者の墜落・転落死亡災害について、起因物として「屋根、はり等」が22.9%、「はしご等」が15.5%、「足場」が12.9%を占めています。

特に「はしご等」の割合は、60歳未満では5.6%だったのに対し、60歳以上では15.5%となっています。

年齢を重ねると、筋力だけでなく、

  • バランス能力
  • 視力
  • 反応速度
  • 疲労からの回復

などにも変化が生じます。

若い頃と同じ感覚で作業できるとは限りません。

そのため施工管理では、「この人はベテランだから大丈夫」という判断ではなく、年齢や身体能力も踏まえて作業方法そのものを見直していく必要があります。

法改正でも墜落防止対策は強化されている

墜落・転落事故が依然として多いことから、国も対策を強化しています。

2023年10月からは足場の点検を行う際、点検者をあらかじめ指名することが義務化されました

また、悪天候後や足場の組立て・変更後などに点検した場合には、点検者の氏名を記録・保存することも求められています。

さらに2024年4月からは、幅1m以上の場所で足場を使用する場合、原則として本足場を使用することが義務化されるなど、足場からの墜落防止措置が強化されています。

厚生労働省も、建設業では墜落・転落災害が死亡災害の約4割を占めるとして、
手すり先行工法など「より安全な措置」の普及を進めています。

ルールは確実に厳しくなっています。

それでも事故がゼロにならないからこそ、最後に重要になるのが現場での運用です。

施工管理者が現場で確認したい5つのポイント

では施工管理者は、何を確認すればよいのでしょうか。

まず重要なのは、「墜落制止用器具を着用しているか」だけで安全管理を終わらせないことです。

1. 作業する場所を先に確認する

作業員が現場に入ってから危険箇所を探すのではなく、

今日、誰が、どこで、何をするのか

を事前に確認します。

屋根、開口部、足場端部、脚立など、高さに関係する作業がある場合には特に注意が必要です。

2. 「2m未満だから大丈夫」と考えない

脚立やはしご、トラック荷台なども墜落・転落事故の発生場所です。

法令上の基準だけを見るのではなく、転落した場合に何があるのかまで確認しましょう

下がコンクリートなのか。

鉄筋があるのか。

資材が置かれているのか。

同じ高さでも、落下した際の危険度は大きく異なります。

3. 手すりや養生の「一時撤去」を管理する

資材搬入や施工上の理由で手すりや開口部養生を外すことはあります。

重要なのは、

「誰が外したのか」

「なぜ外したのか」

「いつ戻すのか」

を曖昧にしないことです。

一時撤去が、そのまま放置になっていないか確認しましょう。

4. 脚立・はしごを「簡単な道具」と思わない

脚立やはしごは、現場で最も身近な道具の一つです。

だからこそ危険性が軽視されやすくなります。

本当に脚立で行うべき作業なのか。

可搬式作業台など、より安全な方法に変更できないか。

作業方法そのものを検討することも施工管理の役割です。

5. 注意するより「落ちられない環境」をつくる

「足元注意」

「安全帯を使って」

と声を掛けることも重要です。

しかし人間は、いつかミスをします。

そのため安全管理では、

落ちないよう注意する」より「そもそも落ちられない環境をつくる

という考え方が重要になります。

手すり、作業床、開口部養生、安全な作業動線など、設備や施工方法によってリスクそのものを小さくすることが理想です。

2026年も「墜落・転落」は建設業の重点課題

建設業労働災害防止協会では、2026年度も8月1日から9月10日まで「墜落・転落災害撲滅キャンペーン」を実施しています。

同協会の第9次建設業労働災害防止5か年計画では、墜落・転落による死亡災害を建設業の死亡災害の平均発生件数と比較して15%以上減少させる目標が掲げられています。

これだけ長年にわたって対策が続けられているということは、それだけ解決が難しい問題でもあります。

安全設備を用意する。

ルールを決める。

朝礼で注意する。

もちろん、どれも重要です。

しかし本当に事故を減らすためには、その一歩先まで考えなければなりません。

「なぜこの作業員は危険な場所に立つ必要があるのか」

「なぜ手すりを外さなければ作業できないのか」

「なぜ脚立で作業する方法になっているのか」

事故が起きてから原因を探すのではなく、作業方法そのものに潜んでいる危険を先に取り除くことが重要です。

まとめ|「気をつける」だけでは墜落事故は防げない

2025年の建設業の死亡者数は214人まで減少しました。

しかし、そのうち91人、42.52%が墜落による死亡災害でした。

数字を見ると、墜落・転落事故がいまだ建設業最大級のリスクであることが分かります。

そして事故がなくならない理由は、単純に「作業員の安全意識が低いから」ではありません。

現場が毎日変化すること。

短時間作業で安全対策が省略されること。

脚立やはしごなど身近な場所にも危険があること。

経験による慣れ。

高齢化。

複数の要因が重なって事故につながります。

施工管理者に求められているのは、「気をつけて作業してください」と伝えるだけではありません。

危険な行動を取らなくても仕事ができる環境をつくること。

そして昨日安全だった場所を、今日も安全だと思い込まないこと。

日々変化する建設現場だからこそ、毎日の小さな確認の積み重ねが重大事故を防ぐことにつながります。

墜落・転落事故を「昔からある事故」で終わらせず、今日の現場に同じ危険がないか。

改めて確認してみてはいかがでしょうか。

参考資料

厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」
建設業労働災害防止協会「建設業における労働災害発生状況」
建設業労働災害防止協会「令和7年 建設業における死亡災害の工事の種類・災害の種類別発生状況」
厚生労働省「足場からの墜落防止対策を強化します」
建設業労働災害防止協会「墜落・転落災害撲滅キャンペーン」

 

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