建設業のAI活用はどこまで進む?全建の生産性向上計画から見る施工管理の未来
建設業の生産性向上に向けて、AI活用が本格的なテーマになってきました。
全国建設業協会は、2025〜2029年度を対象とする「5カ年生産性向上計画」を改定し、新たにAI活用に関するKPIを追加しました。
目標は、2029年度までにAIを活用して業務効率化や改善に取り組む会員企業の割合を40%にすることです。
2026年度時点では18.7%とされており、今後数年でAI活用を大きく広げていく方針です。
背景には、建設業の人手不足、技術者不足、長時間労働、技能継承、災害対応、生産性向上といった課題があります。
施工管理アプリや電子黒板、情報共有システムなどのICT活用は少しずつ広がっています。
一方で、BIM/CIMやウェブカメラの活用にはまだ課題も残っています。
これからの建設業では、ICTを使うだけでなく、AIをどう現場業務に組み込むかが重要になります。
この記事では、全建の生産性向上計画改定をもとに、建設業のAI活用がなぜ必要なのか、施工管理の現場で何が変わるのか、中小建設会社がどのように取り組むべきかを解説します。
参考にした記事:全建/生産性向上計画を改定/KPI追加、29年度までに会員40%AI活用を目標(日刊建設工業新聞)
建設業でAI活用が重要になっている理由

建設業でAI活用が注目される理由は、人手不足だけではありません。
もちろん、施工管理者や技能者の不足は大きな課題です。
しかし、それ以上に問題なのは、限られた人員でこなす業務量が増えていることです。
施工管理者は、現場確認だけをしているわけではありません。
- 工程管理
- 安全管理
- 品質管理
- 写真管理
- 出来形管理
- 書類作成
- 発注者対応
- 協力会社との調整
- 近隣対応
- 若手教育
こうした業務を同時に抱えています。
そのため、現場経験や努力だけで生産性を上げるには限界があります。
AIは、施工管理者の代わりになるものではありません。
しかし、業務の一部を効率化し、判断材料を増やす道具にはなります。
たとえば、写真の整理、書類作成の補助、過去データの検索、危険箇所の抽出、点検結果の分析、工程の遅れの予測などです。
建設業のAI活用は、単なる流行ではありません。
人手不足の中でも、現場の安全・品質・生産性を守るための現実的な対策になりつつあります。
全建の生産性向上計画で追加されたAI活用KPIとは
全建の5カ年生産性向上計画は、会員企業のICT活用促進と生産性向上を後押しするための取り組みです。
計画全体では、2029年度の建設業の労働生産性を2024年度比で9%向上させることを目標にしています。
今回の改定で注目されるのは、AI活用に関するKPIが追加されたことです。
具体的には、AIを活用して業務効率化や改善に取り組む会員企業の割合を、2029年度までに40%へ引き上げる目標が設定されました。
2026年度時点では18.7%とされており、まだAI活用は一部の企業にとどまっています。
しかし、国ではAIロボティクス戦略や人工知能基本計画の策定が進み、国土交通省も建設分野のフィジカルAIやロボティクスの導入に向けた検討を進めています。
つまり、AI活用は大手企業だけの話ではなく、地域建設会社や中小建設会社にも関係するテーマになっています。
今後は、施工管理アプリや情報共有システムと同じように、AIを使った業務改善が徐々に一般化していく可能性があります。
施工管理アプリや電子黒板は普及が進んでいる

全建の計画では、AIだけでなくICT活用の進捗も示されています。
ICT施工に取り組む会員企業の割合は、2029年度までに85%を目標としています。
2026年度実績は60.6%で、前年度の57%から伸びています。
また、施工管理アプリを活用する会員企業は69%、電子黒板を活用する会員企業は66.9%となっています。
これは、現場で使いやすいICTから普及が進んでいることを示しています。
施工管理アプリは、写真管理、日報、図面共有、チャット、検査記録などに役立ちます。
電子黒板は、工事写真の整理や提出書類の作成を効率化します。
これらは、施工管理者の負担を減らしやすいツールです。
特に写真管理は、多くの現場で時間を取られる業務です。
- 撮影漏れがないか。
- 黒板の内容は正しいか。
- 工種ごとに整理されているか。
- 発注者に提出できる形式か。
- 後から探しやすいか。
電子黒板やアプリを使えば、こうした作業の一部を効率化できます。
建設業のデジタル化は、いきなりAIから始める必要はありません。
まずは施工管理アプリや電子黒板のように、日常業務に直結するICTを使いこなすことが重要です。
BIM/CIMやウェブカメラ活用にはまだ課題がある
一方で、すべてのICT活用が順調に進んでいるわけではありません。
全建の調査では、BIM/CIMを活用する会員企業の割合は12.9%でした。
目標の40%とは大きな差があり、前年度の18.7%から後退しています。
また、ウェブカメラを活用する会員企業の割合も21.1%で、目標の60%とは大きな隔たりがあります。
この結果から分かるのは、導入しやすいICTと、導入のハードルが高いICTには差があるということです。
BIM/CIMは、設計・施工・維持管理を3次元データでつなぐ重要な技術です。
しかし、専門知識、ソフトウェア、データ作成、人材育成、発注者側の対応などが必要になります。
中小建設会社にとっては、いきなりBIM/CIMを本格活用するのは簡単ではありません。
ウェブカメラも同様です。
現場の遠隔確認や安全確認に役立ちますが、通信環境、設置場所、プライバシー、費用、運用ルールなどを整える必要があります。
つまり、ICT活用を広げるには、ツールを導入するだけでなく、現場で使い続けられる仕組みが必要です。
AIは施工管理のどこに使えるのか
AI活用というと、難しく感じる人も多いかもしれません。
しかし、施工管理の中には、AIと相性の良い業務がいくつもあります。
たとえば、写真整理です。
工事写真をAIで分類し、工種や撮影内容ごとに整理できれば、提出書類の作成時間を短縮できます。
書類作成にも使えます。
日報、議事録、報告書、協議資料、施工計画書の下書きなど、文章作成の補助にAIを使うことができます。
安全管理にも活用できます。
過去の災害事例やヒヤリハットから、危険ポイントを抽出し、KY活動の参考にすることができます。
点検や維持管理でも役立ちます。
画像解析を使えば、ひび割れ、腐食、変状、損傷箇所を見つけやすくなる可能性があります。
工程管理でも、過去の工程遅延データや天候、資材納期をもとに、遅れのリスクを予測する使い方が考えられます。
AIは、施工管理者の経験を不要にするものではありません。
むしろ、施工管理者が判断するための材料を増やすものです。
最終的に、現場条件を見て判断するのは人です。
AIを使うほど、現場を理解している施工管理者の価値は高まるとも言えます。
中小建設会社がAI活用を始めるなら何から取り組むべきか
中小建設会社がAI活用を始める場合、最初から大きなシステムを導入する必要はありません。
大切なのは、現場の困りごとから考えることです。
- 書類作成に時間がかかっている。
- 写真整理が大変。
- 若手への教育資料が作れない。
- 過去の施工事例を探すのに時間がかかる。
- 安全朝礼のネタが毎回同じになる。
- 発注者への説明資料を作るのが負担。
こうした身近な課題からAIを使う方が、導入しやすくなります。
たとえば、
- 日報の文章作成補助。
- 安全朝礼の注意点整理。
- 施工計画書のたたき台作成。
- 過去の工事写真の分類。
- 議事録の要約。
- 新人向けの教育資料作成。
このような業務であれば、比較的始めやすいです。
ただし、AIを使う際には注意点もあります。
機密情報を入力しない。
発注者名や個人情報の扱いに注意する。
AIの回答をそのまま使わない。
現場条件に合っているか確認する。
社内ルールを決める。
AIは便利ですが、間違うこともあります。
施工管理者や管理職が内容を確認し、現場に合う形に修正することが欠かせません。
AI活用で技能継承はどう変わるのか

全建がAI活用に期待しているものの一つに、技能継承があります。
建設業では、熟練技術者やベテラン技能者の経験が非常に重要です。
- どの順番で施工すれば無理がないか。
- どこに危険が潜んでいるか。
- 図面では見えない納まりの注意点は何か。
- 発注者との協議でどこを確認すべきか。
- 天候や地盤条件でどのようなリスクがあるか。
こうした経験は、若手がすぐに身につけられるものではありません。
AIを使えば、過去の工事記録、写真、ヒヤリハット、施工手順、トラブル事例を整理し、若手が学びやすい形にすることができます。
たとえば、過去の現場で起きた問題を検索しやすくする。
似た工事の注意点をまとめる。
若手向けに施工手順を分かりやすく整理する。
安全教育資料を作成する。
これにより、ベテランの知識を会社全体で共有しやすくなります。
ただし、技能継承はAIだけでは完結しません。
実際の現場で見ること。
先輩から直接教わること。
失敗や改善を経験すること。
協力会社とやり取りすること。
これらは今後も重要です。
AIは、技能継承を補助する道具として活用するのが現実的です。
施工管理者がAI時代に意識すべきこと
AI活用が広がる中で、施工管理者が意識すべきことは大きく5つあります。
第一に、AIを過信しないことです。
AIは便利ですが、現場条件を完全に理解しているわけではありません。最終確認は必ず人が行う必要があります。
第二に、業務の棚卸しをすることです。
自分の現場でどの業務に時間がかかっているのかを整理しないと、AIをどこに使えばよいか分かりません。
第三に、ICTの基礎を整えることです。
写真管理、情報共有、電子黒板、施工管理アプリなどが使えていない状態では、AI活用も進みにくくなります。
第四に、情報管理のルールを作ることです。
工事情報、個人情報、発注者情報、図面、見積、契約情報をどの範囲でAIに扱わせるのか、社内ルールが必要です。
第五に、若手教育に活用することです。
AIは、教育資料、チェックリスト、過去事例の整理、安全朝礼の補助などに使えます。若手が学びやすい環境づくりに役立てることが重要です。
AI時代の施工管理者に求められるのは、AIを使いこなすことだけではありません。
現場を理解し、AIの出力を確認し、正しく使う力です。
まとめ:AI活用は建設業の生産性向上に欠かせないテーマになる
全建は、5カ年生産性向上計画を改定し、新たにAI活用に関するKPIを追加しました。
2029年度までに、AIを活用して業務効率化や改善に取り組む会員企業の割合を40%にすることを目標としています。
背景には、建設業の人手不足、技術者不足、長時間労働、技能継承、生産性向上といった課題があります。
施工管理アプリや電子黒板など、比較的導入しやすいICTはすでに普及が進んでいます。
一方で、BIM/CIMやウェブカメラの活用にはまだ課題も残っています。
これから重要になるのは、ICTの延長線上でAIをどう現場業務に組み込むかです。
AIは施工管理者の仕事を奪うものではありません。
写真整理、書類作成、安全管理、点検、工程管理、技能継承などを支援し、施工管理者がより重要な判断に集中するための道具です。
中小建設会社も、最初から大きな投資をする必要はありません。
日報作成、議事録整理、安全朝礼、写真分類、教育資料作成など、身近な業務からAI活用を始めることができます。
これからの建設業では、AIを使える会社と使えない会社で、生産性や人材育成に差が出る可能性があります。
施工管理者も、AIを遠い話として捉えるのではなく、自分の現場のどの業務を少しでも楽にできるかという視点で向き合うことが大切です。

