クラウディングアウトは土木・建築で起きる?土高建低で人材流出は始まっている
一般的に公共工事を引き受ける土木と、民間工事の多い建築では、条件に違いがあります。
「土木のほうが優遇されているな~」
「建築から土木に移ろうかな……」
上記のように思う人が増え、民間の建築工事が人手不足になる可能性を、財務省が指摘しています。
本記事では財務省が指摘する、「クラウディングアウト」について解説。
国土交通省はクラウディングアウトを否定していますが、建築から土木への人材流出は始まっています。
財務省はなぜクラウディングアウトを指摘するのか、人材流出の理由は何なのか、建設業界の変化を考えていきましょう。
財務省が考える土木と建築のクラウディングアウト
財務省は令和6年4月9日の財政制度分科会にて、「クラウディングアウトを引き起こすことのないよう留意が必要」と指摘しました。
参考:財務省|財政制度分科会(令和6年4月9日開催)資料
公共工事は基本的には土木工事。
その発注が多いと民間の建築工事に悪い影響が出る、と言っています。
公共工事の発注数が増えたり設計労務単価が上がったりすることで、民間建築工事との差が生まれ、人材が流出してしまうからです。
Crowding Out
押し出す、押しのける、のような意味があります。
建設業では働く人が少なくなる、人材不足が問題になっています。
このような状況下で、公共工事である土木の工事発注数が増えて職人の単価も上がると、建築で働いていた人材はどうなるでしょう。
建築から土木の仕事へ移ってしまい、建築工事を行う職人は減ります。
仕事が多くて給料の良い土木へ職人が流れた結果、建築側は人手不足になります。
クラウディングアウトで財務省が懸念すること
財務省はこのクラウディングアウトについて、引き起こすことのないよう留意が必要だと言っています。
財務省は予算を管理する省庁です。
公共工事の発注が増えると、税金・予算をたくさん使うので、増やし過ぎは避けたいのが本音でしょう。
以前動画で紹介した、「施工余力」も財務省からの懸念点でした。
「公共工事を多く発注しても、工事を施工できる余力は残っている?」という視点で、公共工事の予算を削ろうとしていました。
令和6年には施工余力という視点でなく、クラウディングアウトの視点で、公共工事の予算を削減したいのでしょう。
クラウディングアウトに対する土木建築各団体の反論
財務省のクラウディングアウトに対して、土木建築の各団体は反論の姿勢を見せています。
まずは国土交通省。
国土交通省は下記の理由より、クラウディングアウトに留意する必要はないという姿勢です。
- 土木は公共・建築は民間で主体が違う
- 必要な技術・資格・基準などの体系が異なる
- 棲み分けができている
土木である公共工事が、民間の建築工事に悪影響を及ぼすことはないと否定しています。
その他にも各団体は、下記のような姿勢です。
- 日建連:将来の見通しを持った計画的な発注により十分な施工体制を確保できる
- 全国中小建設業協会:主に自治体発注工事では発注が少なく施工余力がある
- 建専連:専門工事の立場として職人を暇にさせない工事量の確保を要求する
施工余力も否定する意見であり、財務省の「クラウディングアウトに留意すべき」という姿勢とは異なります。
「土高建低」:建築と土木の条件の差で人材流出は起きている
土高建低(どこうけんてい)というワードはご存知ですか。
土木が高く建築が低いという意味です。
- 週休2日制の実現が近い(発注者の役所が週休2日制なので)
- 設計労務単価が高くなっている(職人の単価が高い)
- 落札率は90%以上でないと有効にならない(コスト競争が激しくない)
週休2日制については、建設業の働き方に対するリアルな声を下記記事で紹介しています。
土木は建築より優遇されている点も多いのが現状です。
「建築は儲からないから土木に移る」「建築は週休2日にできない。職人や社員への待遇が悪くなるので、土木に移る」という声は、聞く機会が増えてきました。
- 単価・請負金
- 利益
- 週休2日制
上記で優遇されているのが土木です。
土高建低を理由に、建築から土木にシフトする人・企業は増えています。
クラウディングアウトがこれからどうなるかは分かりません。
しかし人材流出はすでに起きています。
まとめ:クラウディングアウトは今後も動向をチェックすべき
クラウディングアウトが起きるかは現時点では分かりません。
国土交通省や土木・建築団体は「クラウディングアウトに留意すべき」という財務省の姿勢とは異なります。
ただし土高建低という言葉のとおり、土木が単価や働き方の面から優遇されているのは事実。
すでに建築から土木にシフトしている人はおり、人材の流出は始まっています。
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この記事の内容は、以下の動画で解説しています。あわせてご覧ください。