施工管理の仕事と聞くと「残業が多い」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。

実際、施工管理の平均残業時間は建設業全体よりも長く、月35〜40時間に達するといわれています。人手不足や工期の厳しさ、アナログ業務の多さなど、複合的な要因が重なり、長時間労働を生み出しているのが現状です。

しかし近年は、国の働き方改革やDXの推進により、施工管理の労働環境は少しずつ改善に向かっています。
本記事では、施工管理の残業が多い理由と平均残業時間、そして残業削減のための取り組みや働き方の工夫について詳しく解説します。

この記事を読むことで、施工管理の「残業のリアル」と「改善の道筋」がわかり、キャリア選択に役つでしょう。

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施工管理とは？仕事内容と役割

施工管理は、建設現場を円滑に進め、建物やインフラを安全かつ高品質に完成させるための重要な仕事です。単なる現場監督ではなく、工事の進捗から予算管理、品質確認、そして安全対策まで、幅広い領域を担います。

施工管理の4大管理（工程・品質・安全・原価）

施工管理の業務は、大きく「工程・品質・安全・原価」の4つに分類されます。

• 工程管理：工期に遅れが出ないよう、作業手順やスケジュールを調整する。
• 品質管理：設計図や基準に沿った施工が行われているかを確認し、完成後の品質を担保する。
• 安全管理：作業員や近隣住民の安全を守るため、危険箇所のチェックや事故防止策を徹底する。
• 原価管理：資材費・人件費などを調整し、予算内で工事を完了させる。

これらはどれか一つでも欠けると大きなトラブルにつながるため、施工管理は常に現場全体を見渡してバランスを取る必要があります。

現場監督としての責任範囲と業務の多さ

施工管理は「現場監督」と呼ばれることも多く、工事現場に関わるあらゆる人と調整を行います。職人や協力会社の作業を取りまとめるだけでなく、発注者や設計者との打ち合わせも欠かせません。

さらに日中は現場の巡回や指示に追われ、夕方以降は以下のような事務作業を行うケースが一般的です。

• 工事写真の整理
• 工程表や図面の作成
• 発注・請求関連の書類作成
• 報告書のまとめ

このように「現場」と「デスクワーク」の両方をこなす必要があるため、必然的に業務量が多く、残業の発生につながりやすいのです。

施工管理の平均残業時間

施工管理は「残業が多い職種」といわれますが、実際にどれくらい働いているのでしょうか。数値データを用いて、全体の平均と職種・年代別の傾向を見ていきましょう。

建設業全体の平均残業時間

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、建設業全体の平均残業時間は月13.3時間です。
一方で施工管理職は月35〜40時間前後とされており、建設業全体の約3倍にあたります。

1日あたりに換算すると1.5〜2時間の残業が常態化しており、繁忙期やトラブル発生時には月60時間以上に達することも少なくありません。

建築と土木で異なる残業時間

日建協（日本建設産業職員労働組合協議会）の調査では、施工管理の分野によって残業時間に差があることが分かっています。

• 建築施工管理（外勤）：平均58.2時間
• 土木施工管理（外勤）：平均51.7時間

2010年代初頭には100時間近い残業が当たり前だった時期もあり、現在は改善傾向にあるものの、依然として高い水準にあります。

若手・中堅・ベテランの年代別の傾向

施工管理の残業時間は、キャリアのステージによっても異なります。

• 若手（入社〜3年程度）：業務に慣れておらず、資料作成や確認に時間がかかるため残業が増えがち。
• 中堅（4〜10年目）：現場責任者を任されることが多く、最も残業が集中する年代。
• ベテラン（10年以上）：効率的に仕事を進められる一方で、大規模案件や管理責任を抱えることが多く、拘束時間が長くなる傾向。

このように施工管理の残業時間は、建設業界全体と比べても突出して多く、特に中堅世代に負担が集中する構造となっています。

施工管理で残業が多い主な理由

施工管理は建設業の中でも特に残業が多い職種といわれています。その背景には、構造的な課題と現場特有の事情が複雑に絡み合っています。

ここでは、代表的な5つの理由を解説します。

人手不足で1人あたりの負担が大きい

施工管理は高度な専門知識と経験が求められるため、人材育成に時間がかかります。しかし業界全体で若手の入職者が減少しており、現場を回せる人材が不足しています。
その結果、一人の施工管理者が複数の業務を抱え込み、工程管理・職人との調整・書類作成までを1人で対応せざるを得ません。分担できないことで残業時間が長引きます。

工期の厳しさや天候・トラブルによる遅延

建設現場は「工期厳守」が絶対条件です。施主や元請けのスケジュールに合わせる必要があり、余裕のない日程で進められることも少なくありません。
さらに、工事現場では以下のような突発的トラブルが発生します。

• 大雨や台風などの天候不良
• 資材や機材の納品遅延
• 設計変更による手戻り
• 現場での事故発生

こうした遅れを取り戻すために、残業や休日出勤で対応せざるを得ず、長時間労働につながります。

アナログ業務が多くDXが進んでいない

施工管理は「紙文化」が根強い業界です。図面修正や報告書作成を手作業で行うケースが多く、効率化が進んでいません。
クラウドやICTツールを導入している企業もありますが、中小の建設会社ではまだ普及途上で、アナログ作業が業務時間を圧迫しています。

事務処理・報告業務が膨大

日中は現場での巡回や職人への指示に追われるため、事務処理はどうしても夕方以降に集中します。代表的な業務には以下があります。

• 工事写真の撮影・整理
• 工程表の作成・更新
• 資材や人件費の原価計算
• 請求書・発注書類の作成
• 打ち合わせ資料や報告書の作成

これらは精度が求められるため時間を要し、結果的に定時後に数時間の残業が常態化してしまいます。

安全管理や品質管理に時間を取られる

施工管理は「人の命」と「建物の品質」を守る責任を負っています。
現場の巡回や安全確認は必須で、作業手順が守られているか、事故のリスクがないかを細かく点検しなければなりません。さらに品質チェックでは、寸法や仕上がりの確認、写真記録の作成などが必要です。

安全・品質のどちらも妥協できないため、時間外に対応することも多く、残業が増える大きな要因となっています。

施工管理の残業がもたらす影響

長時間労働が常態化している施工管理の現場では、働く人にさまざまな悪影響が及びます。

ここでは、代表的な3つの側面を解説します。

ワークライフバランスの崩れ

施工管理は工期に合わせて早朝出勤や深夜残業を余儀なくされることが多く、平日の私生活の時間を確保しにくいのが実情です。家族との時間や趣味の時間が犠牲になりやすく、生活の満足度が下がるケースも少なくありません。
特に子育て世代や家庭を持つ施工管理者にとっては、仕事と生活の両立が難しくなる大きな要因となっています。

健康面・メンタル面への負担

厚生労働省の調査では、施工管理技士の約7割が「業務に関連したストレスを感じている」と回答しています。その理由の一つが長時間労働と休暇不足です。
睡眠不足や過労は、体調不良・生活習慣病のリスクを高めるだけでなく、集中力の低下による現場事故にもつながりかねません。さらに、強いストレスが積み重なることでメンタル不調や離職にも直結します。

若手の離職率の高さ

施工管理は「入職しても辞めてしまう人が多い」職種として知られています。その大きな理由が残業の多さと労働環境の厳しさです。

若手施工管理は慣れない業務に加え、資料作成や確認作業に時間がかかるため残業時間が長くなりがちです。その結果、「将来も続けられない」と感じて早期離職してしまうケースが目立ちます。

この傾向は業界全体の人材不足を加速させ、残った人の負担がさらに増えるという悪循環を生んでいます。

残業を減らすための取り組み

施工管理の残業問題は、個人の工夫だけでなく、業界全体や企業単位での取り組みが求められています。国の法規制や技術革新を背景に、少しずつ改善の兆しが見え始めています。

ここでは代表的な4つの取り組みを紹介します。

働き方改革・36協定による時間外労働の上限規制

2019年に施行された労働基準法改正により、時間外労働は月45時間・年360時間までと上限が定められました。建設業には猶予期間が設けられていましたが、2024年4月から全面適用されています。
違反した場合は罰則が科されるため、企業は残業削減に取り組まざるを得ません。実際に大手ゼネコンでは、週休2日制の導入やシフト制による勤務調整などが進みつつあります。

工期の適正化とスケジュール管理の見直し

施工管理の残業を生む最大の原因のひとつが「無理な工期設定」です。国土交通省は「工期設定支援システム」を公開し、発注者・受注者双方が合理的なスケジュールを組めるようサポートしています。
工期に余裕を持たせることで、突発的なトラブルにも柔軟に対応でき、残業や休日出勤の削減につながります。

DX・ITツール導入（工程管理アプリ・クラウド化など）

建設DXの推進により、現場業務の効率化が進んでいます。例えば、

• クラウド型工程管理ツール：進捗をリアルタイムで共有
• スマホ・タブレットアプリ：工事写真を即時アップロード
• BIM/CIM（3Dモデル管理）：設計・施工・維持管理を一元化

こうしたツールを導入している企業では、書類作成や確認作業にかかる時間を大幅に削減でき、残業時間の短縮効果が表れています。

派遣や外部リソース活用で負担を分散

施工管理のサポート職として「施工管理補助」や「建設ディレクター」といった新しい職域も広がっています。
また、事務処理や安全管理の一部を外部リソースに委託する企業も増加中です。人員を分散させることで、1人の施工管理者に集中していた負担を軽減し、長時間労働を抑えることが可能になります。

施工管理が残業を減らして働く方法

残業を減らす取り組みは業界全体で進んでいますが、実際に施工管理として働く人が「自分で選べる環境」を意識することも大切です。ここでは、個人が取れる具体的な方法を紹介します。

IT化を進めている企業を選ぶ

転職や就職を考える際は、DXやITツールを積極的に導入しているかが重要なチェックポイントです。

• BIM/CIMなど3Dモデルを活用している
• クラウド型の進捗管理システムを利用している
• タブレットやアプリで工事写真や報告を共有している

こうした企業では、紙資料の手作業が大幅に減り、効率的に業務を進められるため、残業時間が少ない傾向があります。

労働時間が管理されている派遣社員として働く

「まずは残業を減らしたい」という人には、派遣社員として働く選択肢もあります。派遣の場合、労働時間の管理が契約で明確に定められており、サービス残業が発生しにくいのが特徴です。
さらに、派遣会社によっては研修制度や資格取得支援が整っているため、働きながらスキルアップを目指すことも可能です。

転職で残業の少ない会社を選ぶポイント

残業の少ない会社を見極めるには、求人票だけでなく、企業の実態を調べることが欠かせません。注目すべきポイントは以下の通りです。

• 週休2日制が導入されているか
• 1現場あたりの施工管理者の人数が十分か
• 工期設定に無理がないか
• 残業時間や有給消化率を公開しているか

こうした情報を面接で確認することや、転職エージェントを活用して内部事情をリサーチすることが、残業削減につながる環境を選ぶコツです。

残業が多くてもやりがいがある理由

施工管理は確かに残業が多い職種ですが、それでも「やりがいがある」と感じて働き続ける人が多いのも事実です。ここでは、その理由を3つの視点から解説します。

専門性が高くキャリアの幅が広がる

施工管理は国家資格である「施工管理技士」と密接に関わる職種であり、スキルや経験がそのまま市場価値につながります。
資格を取得すれば主任技術者や監理技術者といったポジションを担えるようになり、大規模プロジェクトや公共工事に携わるチャンスも増えます。専門性を磨くことで、キャリアアップと転職市場での優位性が手に入るのです。

年収水準が比較的高い

施工管理は責任が大きい分、給与水準も他職種より高めです。

• 残業代や現場手当が上乗せされやすい
• 工期短縮やコスト削減でインセンティブが発生する場合もある
• 公共性の高い仕事で需要が安定している

このような背景から、同年代の平均年収を上回るケースが多く、**「ハードだが稼げる仕事」**としての魅力があります。

プロジェクトを成し遂げる達成感

施工管理の最大のやりがいは、形に残る建物を完成させる達成感にあります。
住宅・ビル・道路・橋など、自分が関わった仕事が社会に残るため、誇りを持ちやすいのが特徴です。苦労を乗り越えて竣工を迎えた瞬間には「残業してでもやってよかった」と感じる人も多くいます。

施工管理の最新情報をチェックしよう

施工管理の働き方や残業削減の取り組みは、法改正やDXの進展によって常に変化しています。最新の動向を知ることで、キャリア形成や転職活動にも大きなメリットがあります。

施工管理に関する最新情報を知りたい方は、公式メディア 「施工管理チャンネルmagazine」 をご覧ください。

現場のリアルな働き方やキャリア戦略、労働環境の改善事例など、実務に役立つ情報が満載です。

まとめ

施工管理は建設業の中でも残業が多い職種であり、平均残業時間は月35〜40時間と、建設業全体の約3倍にのぼります。その背景には、人手不足や工期の厳しさ、アナログ業務の多さ、そして安全・品質管理といった避けられない責任業務が存在します。

一方で、働き方改革の推進や36協定の上限規制、DXの普及によって、長時間労働の是正に向けた取り組みは着実に進みつつあります。企業によっては工期の適正化やクラウドツール導入により、残業を大幅に減らしている事例も出てきています。

また、個人としてもIT化が進んでいる企業を選んだり、派遣や転職を通じて労働環境を改善する道があります。施工管理は厳しい労働環境の一方で、高い専門性・安定した収入・社会に残る建物を手掛ける達成感という大きなやりがいも備えています。

今後は業界全体で「残業を前提としない働き方」が求められる時代です。施工管理を目指す方は、現実の厳しさと改善の方向性を理解したうえで、自分に合った働き方を選択していくことが重要です。