公共工事の入札制度が、施工管理の働き方をどう変えているか?
施工管理の仕事は、現場だけを見ていても語りきれません。実は、その働き方や待遇、労働環境を大きく左右しているのが 「公共工事の入札制度」 です。
入札制度は単に「工事会社を選ぶ仕組み」ではなく、現場の人員配置、休日制度、安全性、教育体制まで影響を与える、施工管理の働き方を根本から変える要素なのです。
ここでは、制度と働き方の関係をわかりやすく解説し、施工管理が 「制度を理解して働き方を選ぶ時代」 に入ったことを紹介します。
\施工管理チャンネルもチェック!/
なぜ入札制度は施工管理の働き方に影響するのか?

施工管理の仕事は“制度の影響を直接受ける”珍しい職種
施工管理の働き方は、現場の規模・工期・予算、さらには安全管理の基準や配置人数までも大きく左右されます。そしてこれらの条件はすべて、発注者(国・自治体など)との契約内容=入札制度によって決まるものです。
つまり施工管理は、制度改正や法律の変更があるたびに、働き方・現場のルール・評価基準が変化する、他業界にはあまり見られない特殊な職種なのです。
一般の事務職や営業職は、制度が変わっても仕事の中身は大きく変わりません。しかし、施工管理の場合は違います。たとえば「週休2日工事の推進」「時間外労働規制」「CCUSによる技能者評価」などの制度が導入されると、現場の動かし方や人員配置、安全計画まで変わります。
制度の変化が、そのまま働き方の変化につながる職種――それが施工管理なのです。
入札=会社の利益を左右、現場の労働環境も左右する仕組み
入札制度は、工事の請負会社を決めるだけでなく、その会社の利益構造と現場のコンディションまで決めてしまう仕組みです。
とくに「最低価格方式」で落札した工事では、利益を確保するために人件費や教育費が削られやすく、結果として施工管理に大きな負担が集中します。
入札制度によって生じる施工管理の働き方への影響例
- 1人で複数現場を兼任させられる
- 残業・休日出勤が常態化する
- 安全管理や品質管理が形式的になる
- 若手の育成が後回しになる
- 現場支援ツールやICT投資が進まない
つまり、入札制度が「安さ」を重視している限り、現場の働き方は改善しにくい構造になっています。
現場の働き方は、施工管理の努力や会社の体制だけでなく、根本にある“制度設計”によって決まっているのです。
制度改正と働き方改革が現場に波及するサイクル
近年、国土交通省は入札方式を見直しながら、“働き方改革”や“担い手確保”を目的とした制度改正を進めています。
総合評価方式や週休2日工事、CCUS(建設キャリアアップシステム)などはまさにその代表例です。これらの制度は、発注者側だけの話ではなく、現場の運営ルールそのものを変える力を持っています。
制度が変わると何が起きるのか?
その流れは、とてもシンプルです。
- 制度が変わる
- 契約条件が変わる(休日・配置人数・評価基準など)
- 現場ルールが変わる
- 施工管理の働き方が変わる
つまり、施工管理の働き方改革のカギを握っているのは、企業の努力だけではありません。「制度が変われば、働き方も変わる」――制度こそが現場改革のスタート地点なのです。
公共工事に使われる入札方式の種類と特徴

公共工事の発注に使われる入札方式は、単なる「価格で決める仕組み」ではありません。
採用される方式によって、現場の労働環境・人員配置・休日制度・教育体制など、施工管理の働き方に大きな違いが生まれます。
ここでは、代表的な入札方式の特徴と、それぞれが施工管理の働き方にどう影響するのかを具体的に見ていきます。
最低価格方式(価格競争型入札)とは?働き方への影響
最低価格方式は、「最も安い価格を提示した会社が落札する」 という、昔からあるオーソドックスな入札方式です。
一見、公平で無駄のない仕組みに見えますが、建設業界においては次のような弊害を生みやすい方式でもあります。
低価格で落札すると利益が出にくく、結果的に次のような影響が発生します。
低価格方式の現場でよくある労働環境の特徴
つまり、最低価格方式は、“安く請け負うほど施工管理に負担が集中する構造” を生み出しやすい入札方式なのです。
この方式が長年主流だったことで、施工管理の長時間労働・人材不足・若手が定着しない構造的課題が深刻化してきました。
総合評価方式(品質・人材・環境評価重視)の登場
こうした課題を受けて導入されたのが、現在主流となりつつある総合評価方式です。
これは価格だけでなく、「人材の質・安全管理・ICT活用・教育・環境配慮」などの取り組みも評価する入札方式です。
総合評価方式で評価される主な項目
- 施工管理技士・技術者の資格・経験(CCUSレベル・経歴)
- ICT施工・BIM/CIM・遠隔臨場の導入状況
- 週休2日工事や働き方改革の実施状況
- 安全性・品質管理の体制(安全書類・事故防止策)
- SDGsや環境配慮型工法の採用
つまり、これからの公共工事では、
「安い会社」よりも「技術力と人材力がある会社」が評価される時代に変わったのです。
この方式が広がることで、施工管理の働き方にも次のような変化が起こり始めています。
働き方の変化例
地域維持型入札・担い手確保型入札など新制度の特徴
さらに近年では、地域の建設業者の維持や、若手の施工管理者の育成を目的とした入札方式が増えています。
これらは「安さ」ではなく、地域の施工力を長期的に守る視点を重視しています。
新しい入札方式の特徴
- 大手ゼネコンだけでなく、地域の中小建設業にも受注機会を与える
- 若手施工管理者の育成や地域雇用の維持を評価する
- 地域防災・インフラ保全など公共性の高い事業に適用される
- “担い手確保”や“地域施工力の維持”が目的
この方式が広がることで、施工管理の働き方にもプラスの影響があります。
期待される変化
- 人材が長期的に育成される仕組みが整う
- 人を育てる企業が高く評価される
- 地域密着型の働き方が増える(転勤がない働き方も可能に)
低価格入札が施工管理の働き方を悪化させた理由

価格競争 → 人件費削減 → 管理職(施工管理)に負担集中
最低価格方式では、工事を安く落札することが目的になりがちです。利益を確保するには、まず削られるのが「人件費」と「教育費」。その結果、現場に配置できる施工管理の人数が不足し、1人に多くの業務と責任がのしかかります。
低価格入札によって実際に起こる現場の問題
- 施工管理の人数を最低限に抑える
- 下請け任せが増え、元請の施工管理に責任が集中する
- 書類・安全管理・調整・発注業務もすべて自分で抱える
- 労働時間は増えるのに、評価されにくい
つまり、現場を支えるべき人に最も負荷が集中する構造が生まれてしまうのです。
これは個人の努力やスキルの問題ではなく、入札制度そのものが生み出した構造的な課題だと言えます。
1人で複数現場、教育不足、若手が育たない悪循環
人員が不足すれば、施工管理1人が複数の現場を掛け持ちするケースも珍しくありません。
現場に十分な時間を割けないため、後輩の指導やOJTどころではなく、“教えるより、自分でやったほうが早い”という状況が続きます。
その結果、現場では次のような悪循環が起こります。
人手不足
↓
教育する余裕がない
↓
若手が育たず辞めてしまう
↓
さらに人手不足が進む
これは企業の教育意欲の問題ではなく、利益を圧迫する低価格入札の構造が教育の余力を奪っているのです。
つまり、低価格入札は「若手が育たない業界」を作る最大の原因と言っても過言ではありません。
“安く請け負うほど現場は疲弊する”構造的な問題
低価格で受注すればするほど、現場の安全性・品質・人材育成への投資が削られていきます。
施工管理の離職理由には「業務量が多すぎる」「休みが取れない」「教育がない」「責任だけ重い」などが挙がりますが、実はその多くは個人や会社の問題ではなく、“制度によって作られた労働環境”の問題です。
低価格入札によって削られやすいもの
- 教育費(新人研修・資格サポート)
- 安全管理費(安全書類・設備・人員補助)
- ICT・DX投資(BIM/CIM、遠隔臨場、クラウド管理)
- 適正な人員配置・週休2日の仕組み
結果的に、施工管理の仕事は「安全より納期」「育成より効率」「現場より書類」といった本末転倒な状態に陥ります。
つまり、“安く請け負えば請け負うほど、現場が疲弊しやすい仕組み” が長年続いてきたのです。
ポイント整理
| 項目 | 低価格入札の影響 |
|---|---|
| 人員 | 最小人数で回す → 過重労働へ |
| 教育 | 時間も費用もかけられず、育成不能 |
| 安全 | 手が回らず、事故やヒヤリハットが増える |
| 働き方 | 休めない/辞めたくなる/人が定着しない |
| 評価 | 責任は重いが、評価されにくい |
総合評価方式と2024年問題は、施工管理の働き方をどう変えたか?

価格より“人材・安全・環境”が評価される時代へ
これまで公共工事は「安く請け負った会社が勝つ」構造が主流でした。しかし2024年問題(建設業における時間外労働の上限規制)をきっかけに、“安さより、働き方・安全性・人材育成を重視する時代” へと大きく転換しました。
総合評価方式では、落札者を「価格だけでなく、人材・技術力・安全性・教育体制などを総合的に見て決める」仕組みへと移行しています。
総合評価方式で評価される主な要素
- 施工管理技士の資格・経験・CCUSレベル
- ICT施工(ドローン測量・遠隔臨場・BIM/CIMなど)の導入状況
- 週休2日への対応、長時間労働の改善体制
- 安全管理の仕組み、事故ゼロの実績
- 若手の育成力、教育環境
- SDGs・環境配慮型工法の採用
つまり、施工管理者の 「スキル」「キャリア」「育成力」「安全の意識」こそが会社の競争力になる時代 へと変わっているのです。
これは、施工管理の働き方にとっても大きな追い風となっています。
“週休2日工事”の仕組みと施工管理への影響
公共工事では、国土交通省が「週休2日で工事を進める現場」を高く評価する仕組みを整えています。
そのため、工期管理の考え方も大きく変わり、“休ませる前提で計画を作る” ことが当たり前になりつつあります。
週休2日工事が施工管理にもたらすメリット
- 人材の定着率が向上し、離職防止につながる
- 工程管理の質が上がり、ムダな残業が削減される
- 現場の安全意識が高まり、事故やヒヤリハットが減少
- “休める現場=優良企業”として評価され始める
特に大きな変化は、「休める施工管理が評価される時代になったこと」 です。
以前は「休まず頑張る施工管理が評価される」時代でしたが、今は適切に管理し、休める現場を作れる施工管理こそ、優秀な管理技術者と評価されます。
“技術者評価(CCUS)”が施工管理の価値を見える化
CCUS(建設キャリアアップシステム)は、施工管理者や技術者の経歴・資格・実績をオンラインで可視化する仕組みです。
これにより、施工管理の「経験年数・工事実績・資格・配置技術者としての評価」などが記録され、“見える資格・評価されるキャリア” へと変わり始めています。
CCUSで見えるようになる情報の例
- どんな工事で、何の役割を担ったか
- 一級施工管理技士/監理技術者などの資格
- 技術者レベル(レベル1〜4)
- 安全・品質・労務管理の実績
つまり、これまで評価されにくかった施工管理の努力が、データとして評価される時代に入りました。
会社ではなく、「個人に価値が蓄積される働き方」へと変化しているのです。
CCUSによって起こる施工管理のキャリア変化
| 旧来の働き方 | これからの働き方 |
|---|---|
| 会社に依存したキャリア | 個人として評価されるキャリア |
| 努力が見えない | 実績・資格・経歴が見える化 |
| 会社が人を選ぶ | 発注者や企業が“技術者を指名する”時代 |
新しい入札制度によって増えている“現場の変化”具体例

現場にICT施工・遠隔臨場・BIM/CIMが導入され始めた
総合評価方式の普及により、ICT施工やBIM/CIMの導入が加速しています。
ドローン測量・遠隔臨場・3Dモデル管理など、施工管理の仕事は「現場にずっといる仕事」から「技術と判断の仕事」に変わり始めています。
施工管理の仕事が“管理から調整と判断の仕事”にシフト
これからの施工管理に求められるのは「段取り力」だけではありません。
施工主・職人・設計者・行政など、関係者間の調整と意思判断が重要な役割になっています。
若手や女性施工管理が増え始めた背景
週休2日・ICT活用・安全管理優先の現場が増えたことで、
「働きやすい施工管理」 が実現し始めています。これにより、女性や若手の参入も増加しています。
\こちらもおすすめ/
今後、施工管理の働き方はどう変わっていくのか?

施工管理の価値が“監督”から“マネジメント・評価役”へ
これからの施工管理の役割は、現場で工程を追いかけ続ける「監督」ではなく、品質・安全・コスト・人材・DXを横断管理する“プロジェクトマネージャー” に変化していきます。
なぜなら、総合評価方式やCCUSの導入によって、施工管理者の知識や判断が、企業の評価・工事の品質・採算性に直結するようになったからです。
今後の施工管理に求められる役割は以下のように変わっていきます。
| 過去の施工管理 | これからの施工管理 |
|---|---|
| 指示を出す監督者 | 調整し導くマネージャー |
| 現場に貼り付く | 現場とオフィスを行き来する |
| 段取りと安全管理が中心 | 品質・DX・人材育成・評価まで担当 |
| “作業を管理する”仕事 | “価値を管理する”仕事 |
つまり、施工管理は「現場にいる人」ではなく、現場の価値を最大化する人材として評価されるようになります。
“現場にずっといる仕事”ではなくなる可能性
遠隔臨場(リモート臨場)やICT施工、BIM/CIMの普及により、現場の管理方法そのものが変わり始めています。
従来:常に現場にいる → 常時立ち合い・写真撮影・指示出し
これから:必要な時だけ現場に行く → 遠隔で確認・オンライン調整・自動記録
つまり、施工管理の働き方は、「現場常駐型」から「ハイブリッド型(現場+オフィス+オンライン)」 へと変わりつつあります。
今後広がる施工管理の働き方の例
- オンラインで書類整理や打合せ
- 現場には週数回の確認・検査だけ行く
- ドローン映像や遠隔臨場で進捗確認
- 技術提案・工程計画・教育を兼任
- 女性や子育て世代でも続けやすい働き方が可能に
つまり、施工管理は「現場に貼りつく仕事」から、判断・調整・教育・評価を担う知的職種へと変化しています。
求められるスキルは、段取り力より“翻訳力・DX対応・制度理解”
これまで施工管理に求められてきたスキルといえば「段取り力」「コミュニケーション力」「安全管理」などが中心でした。
しかし今後は、制度・DX・評価が関係することで、求められるスキルも変わっていきます。
これからの施工管理に求められる3つの力
- ① 現場の情報を正しく伝える「翻訳力」
- 現場の状況を、発注者や協力会社、行政、設計者に“わかる言葉”で伝える力が求められます。
写真・図面・3Dモデル・工程データを使い、判断できる形で共有する能力が重要になります。
- ② ICT施工・BIM/CIM・遠隔臨場に対応する「DX活用力」
- DXの導入は、現場の効率化だけでなく、“施工管理の労働負荷を減らす” ことにも直結します。
使いこなす技術力というより、“必要な場面で使いこなせる判断力” が求められるようになります。
- ③ 入札制度・法改正・週休2日制度を使いこなす「制度理解力」
- 制度を理解した施工管理は、「人を増やせる」「休みを確保できる」「教育を実現できる」 現場を作ることができます。
制度を味方につけられる施工管理こそ、今後最も市場価値の高い人材になります。
制度を理解する施工管理が“選ばれる人材”になる

制度を理解する=受注判断・現場効率・安全管理に直結
入札制度・CCUS・週休2日制度などを理解している施工管理は、会社にとっても非常に価値の高い存在です。
制度を武器にすれば、現場の無理な働き方を防ぎ、自らの働き方も守ることができます。
CCUS・総合評価・週休2日制度は“施工管理の武器”になる
制度を知っている施工管理は、
「どうやれば休める現場になるか」
「どうすれば人を増やせるか」
「どうすれば教育できるか」
を理解し、提案できる人材になります。
制度に強い施工管理=給与も評価も上がる未来
制度を理解している施工管理は、企業から指名される存在になり、評価や単価も自然と上がっていきます。
これからは、“制度で働き方をデザインできる”施工管理が選ばれる時代です。
現場だけでは学べない“施工管理の本当の価値”を知っていますか?

施工管理の仕事は、制度・評価・DX・人材育成など、現場の外で起きている変化によって進化している職種です。
しかし、その情報は現場ではなかなか届きません。
だからこそ、これからの施工管理は 「現場」だけでなく「情報」に強い人材」が選ばれる時代へと変わっています。
そんな“これからの施工管理に必要な情報”を一つにまとめて発信しているのが施工管理チャンネルMAGAZINEです。
まとめ|制度が変われば、施工管理の働き方も変わる
施工管理の働き方は、現場だけで決まるものではありません。
入札制度・週休2日制度・CCUSなどの制度を理解することで、働き方は選べる時代に入りました。
- 低価格入札 → 労働環境悪化の時代は終わりつつある
- 総合評価方式 → 人材・安全・環境が評価される時代へ
- CCUSとDX → 施工管理の価値が見える化される
- 働き方は「現場常駐型」から「マネジメント型」へ進化
