インフラ維持管理は「まとめて見る」時代へ。施工管理が知るべき群マネと地域建設業の役割
道路、橋、トンネル、上下水道、河川、港湾、公園、公共施設。
私たちの生活は、多くのインフラによって支えられています。
しかし、これらのインフラは、つくって終わりではありません。整備されたあとも、点検、補修、更新、集約、再編を続けなければ、老朽化や災害リスクに対応できません。
近年、国土交通省は新しいインフラマネジメントの方向性として、個別施設ごとの維持管理だけでなく、地域のインフラを一体的に捉える考え方を打ち出しています。
その中心にあるのが、地域インフラ群再生戦略マネジメント、いわゆる群マネです。
群マネとは、道路は道路、橋は橋、下水道は下水道とバラバラに管理するのではなく、地域にある複数のインフラを「群」として捉え、計画・設計・維持管理・集約・再編までを統合的に考える取り組みです。
これは行政や政策だけの話ではありません。
施工管理者や地域建設会社にとっても、今後の仕事のあり方に関わる大きなテーマです。
この記事では、国土交通省が示した統合的インフラマネジメントの方向性をもとに、群マネとは何か、なぜ必要なのか、施工管理者や地域建設業にどのような役割が求められるのかを解説します。
参考にした記事:国交省/統合的インフラマネジへ方向性、群マネ制度化や業界力向上(日刊建設工業新聞)
なぜインフラ管理は限界に近づいているのか

これまでのインフラ管理は、基本的に施設ごとに行われてきました。
橋は橋として管理する。
道路は道路として管理する。
上下水道は上下水道として管理する。
公共施設は公共施設として管理する。
この考え方は、施設単位ではわかりやすい一方で、地域全体で見ると課題もあります。
たとえば、ある自治体に老朽化した橋、傷んだ道路、更新時期を迎えた上下水道、利用者が減った公共施設が同時に存在しているとします。
それぞれの部署が個別に点検し、個別に予算を取り、個別に工事を発注していると、限られた人員や予算を効率よく使うことが難しくなります。
さらに、地方自治体では技術系職員の不足も深刻です。
国土交通省が実施した自治体アンケートでも、技術系職員不足や技術的ノウハウ不足に悩む地方の実態が浮かび上がっています。点検結果やインフラの状態を十分に整理できない、将来の更新計画を描きにくい、専門的な判断が難しいという課題があります。
インフラは老朽化していく一方で、それを管理する人材や予算は限られています。
このまま個別施設ごとの管理を続けるだけでは、地域全体としてどのインフラを優先的に直すべきか、どの施設を維持し、どの施設を集約・再編すべきかを判断しにくくなります。
だからこそ、これからはインフラを個別に見るのではなく、地域全体でまとめて見る考え方が必要になっているのです。
群マネとは何か
群マネとは、地域インフラ群再生戦略マネジメントの略称です。
簡単に言えば、地域にある複数のインフラを一体的に捉え、戦略的に管理していく考え方です。
従来の維持管理は、「壊れたところを直す」「点検で悪いところを補修する」という発想になりがちでした。しかし、群マネでは、より広い視点で考えます。
- この地域にどんなインフラがあるのか。
- どの施設が老朽化しているのか。
- 人口分布はどう変わるのか。
- 災害リスクはどこにあるのか。
- 土地利用は今後どう変化するのか。
- どの施設を残し、どの施設を集約するのか。
- どの工事をまとめて行えば効率的なのか。
- 将来世代にどのような負担を残すのか。
つまり、群マネは単なるメンテナンス手法ではありません。
地域の将来を見据えて、インフラの維持、更新、再編を考えるマネジメントです。
たとえば、道路の補修と上下水道の更新を別々に行えば、何度も同じ道路を掘り返すことになります。しかし、地域全体のインフラ情報を共有できていれば、工事をまとめて行い、コストや交通規制の負担を減らせる可能性があります。
また、人口が減少している地域では、すべての施設を従来通り維持するのではなく、利用状況や災害リスクを踏まえて集約・再編を検討する必要もあります。
群マネは、限られた予算と人材の中で、地域インフラを持続可能にするための考え方なのです。
インフラの「見える化」が重要になる

群マネを進めるうえで重要になるのが、インフラの見える化です。
国土交通省の整理でも、インフラの状況、人口分布、災害リスク、土地利用などを地図上に落とし込み、点検・調査結果をデジタル化することが具体策として挙げられています。
これは非常に重要です。
なぜなら、インフラの状態が見えなければ、優先順位を決められないからです。
- どの橋が古いのか。
- どの道路が傷んでいるのか。
- どの下水道が更新時期を迎えているのか。
- どの地域に高齢者が多いのか。
- どの場所が浸水リスクを抱えているのか。
- どの施設が利用されていないのか。
こうした情報がバラバラに管理されていると、地域全体の判断ができません。
一方で、地図やデータで見える化されていれば、自治体、建設会社、住民が同じ情報を見ながら話し合えるようになります。
施工管理の現場でも、見える化はすでに重要になっています。
図面、工程表、写真、点検結果、出来形、補修履歴、資材情報、協力会社の作業記録。これらを紙や個人の経験だけで管理していると、引き継ぎや判断が難しくなります。
インフラマネジメントの時代には、施工管理者にも「現場をデータとして残す力」が求められます。
点検写真を正しく整理する。
補修箇所の位置情報を記録する。
施工内容を履歴として残す。
どの材料を使ったのか記録する。
次回点検時に見るべきポイントを残す。
こうした積み重ねが、将来の維持管理に役立ちます。
住民への説明にも見える化が必要になる
インフラの見える化は、行政や建設会社だけのためではありません。
住民への説明にも重要です。
- 老朽化した橋を補修する。
- 道路を通行止めにして工事する。
- 公共施設を集約する。
- 上下水道の更新工事で道路を掘る。
- 災害リスクの高い区域で対策工事を行う。
こうした取り組みには、住民の理解が必要です。
しかし、なぜその工事が必要なのか、なぜその施設を直すのか、なぜ別の施設は後回しなのかが見えなければ、不満が出やすくなります。
特に、インフラの集約や再編は、住民にとって身近な問題です。利用していた施設が変わる、通行ルートが変わる、工事で不便が生じるとなれば、丁寧な説明が必要になります。
そのときに役立つのが、データや地図による見える化です。
「この橋は老朽化が進んでいます」
「この地域は浸水リスクが高いです」
「この道路は災害時の避難路になります」
「この施設は利用者が減っています」
「この工事をまとめて行うことで、交通規制の回数を減らせます」
このように、視覚的に説明できれば、住民も工事の必要性を理解しやすくなります。
施工管理者にとっても、今後は工事を進めるだけでなく、住民に伝わる形で現場情報を整理する力が重要になっていくでしょう。
地域建設業の役割はさらに大きくなる

統合的インフラマネジメントでは、地域建設業の役割も大きくなります。
なぜなら、地域のインフラを日常的に見ているのは、地域の建設会社だからです。
- 道路の傷み。
- 側溝の詰まり。
- 橋の劣化。
- 法面の崩れ。
- 河川の異常。
- 舗装のひび割れ。
- 災害時に危ない箇所。
- 冬場の除雪が必要な場所。
こうした地域の細かな変化は、地元の建設会社が一番把握していることがあります。
大規模なインフラ整備だけでなく、日常の維持管理、補修、災害対応、除雪、緊急対応まで含めると、地域建設業は単なる工事業者ではありません。
地域インフラを守る実働部隊です。
国土交通省も、地域建設業を含むインフラマネジメント産業の業界力向上を掲げています。これは、単に技術力を上げるという意味だけではありません。
- 維持管理を継続的に担える体制。
- 自治体と連携できる体制。
- 点検や補修のデータを扱える体制。
- 災害時に動ける体制。
- 若手を育て、技能を継承する体制。
こうした総合的な力が求められているということです。
施工管理者にとっても、維持管理の現場では、新築工事とは違う力が必要になります。
- 限られた情報から現場を判断する。
- 既存構造物の状態を読む。
- 住民や道路利用者に配慮する。
- 供用中のインフラを止めずに施工する。
- 緊急対応と通常業務を両立する。
- 小規模工事を効率よく管理する。
これからの施工管理では、つくる力だけでなく、守る力も重要になります。
維持管理を合理的に受注できる仕組みが必要
インフラ維持管理を進めるには、発注や契約の仕組みも重要です。
維持管理工事は、新築工事と違って、規模が小さいものや緊急対応が多いものもあります。
たとえば、道路の小規模補修、側溝清掃、橋梁補修、舗装の部分補修、災害後の応急対応、除雪、点検後の簡易補修などです。
こうした仕事を単発・細切れで発注していると、受注者側は人員や機材を安定的に確保しにくくなります。
一方で、地域ごと、施設群ごとにまとめて維持管理を発注できれば、建設会社も体制を組みやすくなります。施工管理者も、地域全体の状況を把握しながら、優先順位をつけて対応しやすくなります。
国土交通省が、維持管理を合理的に受注できる入札・契約制度を検討するとしているのは、この点で重要です。
インフラを持続的に守るには、建設会社側にも安定して人を置ける仕組みが必要です。
維持管理は、単発の補修ではなく、継続的な仕事です。
点検して、記録して、補修して、次回点検に活かす。
災害時に備え、平時から地域を見ておく。
自治体と情報を共有し、優先順位を決める。
住民の声も踏まえて対応する。
このような継続的なマネジメントを行うには、発注方式そのものも変わっていく必要があります。
施工管理者に求められる力も変わる

群マネや統合的インフラマネジメントが進むと、施工管理者に求められる力も変わっていきます。
これまでの施工管理は、決められた工事範囲を、決められた工期と予算で完成させることが中心でした。
もちろん、それは今後も重要です。
しかし、維持管理の時代には、もう少し広い視点が求められます。
- 目の前の補修だけでなく、次にどこが傷みそうかを見る。
- 工事単体だけでなく、地域全体のインフラ状況を見る。
- 新設だけでなく、既存構造物の状態を読む。
- 施工記録を将来の維持管理に活かす。
- 住民や自治体に説明できる情報を残す。
- 災害時の対応まで見据えて現場を考える。
つまり、施工管理者は「工事を終わらせる人」から、「インフラを長く使い続けるために管理する人」へ役割が広がっていきます。
これからの施工管理では、現場を見る力に加えて、データを見る力、地域を見る力、将来を見据える力が重要になります。
まとめ
国土交通省が示す新しいインフラマネジメントの方向性では、整備後のメンテナンスだけでなく、計画、設計、維持管理、集約、再編までを含めた統合的な管理が重視されています。
その中心にあるのが、地域インフラ群再生戦略マネジメント、いわゆる群マネです。
群マネは、道路、橋、上下水道、公共施設などを個別に見るのではなく、地域のインフラを一体的に捉え、限られた予算や人材の中で持続的に管理していく考え方です。
背景には、インフラ老朽化、地方自治体の技術系職員不足、ノウハウ不足、災害リスク、人口減少があります。
これから重要になるのは、インフラの見える化です。
インフラの状態、人口分布、災害リスク、土地利用、点検・調査結果をデジタル化し、地図上で把握できるようにすることで、自治体、建設会社、住民が同じ情報をもとに判断しやすくなります。
施工管理者にとっても、この流れは無関係ではありません。
点検結果を記録する。
補修履歴を残す。
位置情報や写真を整理する。
住民に工事の必要性を説明する。
地域全体のインフラ状況を意識する。
災害時にも動ける体制をつくる。
こうした力が、これからの施工管理には求められていきます。
地域建設業は、インフラをつくるだけでなく、守り続ける存在です。
これからの施工管理は、新しい構造物を完成させる仕事だけではありません。地域の道路、橋、上下水道、公共施設を長く使い続けるために、日々の変化を見て、記録し、補修し、次世代へつなぐ仕事でもあります。
インフラ維持管理は、これからますます重要になります。
そして、その最前線を支えるのは、地域の建設会社と施工管理者です。


