建築士不足と脱炭素化で現場はどう変わる?施工管理が知るべき建築関係2法改正
建設業界では、担い手不足と脱炭素化への対応が同時に進んでいます。
人が足りない。
技術者が育たない。
設計や工事監理の負担が増えている。
建築物には省エネ性能だけでなく、資材製造から施工、運用、解体まで含めた環境配慮が求められる。
こうした流れの中で、建築士法改正案と建築物省エネ法改正案が注目されています。
今回の改正では、将来の建築士を確保するため、在学中に建築士試験を受験できるようにするなど、受験・免許要件の見直しが進められています。さらに、建築士が設計・工事監理を行う契約について、書面契約の対象拡大や見積書作成など、契約適正化に向けた規制強化も盛り込まれています。
一方、建築物省エネ法改正では、建築物の脱炭素化を進めるため、ライフ・サイクル・カーボン、いわゆるLCCO2評価制度が創設される方向です。
これは、建物を使っているときの省エネ性能だけでなく、資材の製造、施工、運用、解体まで、建築物の一生を通じたCO2排出を評価する考え方です。
このニュースは、建築士や設計者だけの話に見えるかもしれません。
しかし、施工管理者にとっても無関係ではありません。
なぜなら、設計・工事監理の担い手確保、契約内容の明確化、省エネ性能、LCCO2評価は、すべて現場の工程管理、品質管理、資材選定、記録管理、発注者対応に関わってくるからです。
この記事では、建築関係2法改正のポイントをもとに、施工管理の現場にどのような変化が起きるのかを解説します。
参考にした記事:建築関係2法案が成立へ/士法と省エネ法改正、担い手確保と脱炭素化促進(日刊建設工業新聞)
建築士不足は施工管理にも影響する

今回の建築士法改正で大きなポイントの一つが、建築士の受験・免許要件の見直しです。
大学などで一定の単位を取得し、卒業見込みであれば、在学中に1級・2級・木造建築士試験を受験できるようにする方向が示されています。
また、2級建築士から1級建築士になる際の実務経験要件や、建築学科を卒業していない場合の2級建築士の受験・免許要件も緩和されます。建築設備士についても、建築士と同じように、受験時ではなく登録時に実務経験を求める制度が創設される方向です。
背景にあるのは、将来の建築士を確保する必要性です。
建設業では、施工管理者や技能者だけでなく、設計者や工事監理者の担い手確保も重要な課題になっています。
設計者が不足すれば、設計図書の作成や確認に時間がかかります。工事監理者が不足すれば、現場での確認や質疑応答、変更対応にも影響します。建築設備士が不足すれば、空調、衛生、電気、防災などの設備設計・確認にも負荷がかかります。
これは施工管理にも直結します。
- 図面の確定が遅れる。
- 質疑への回答が遅れる。
- 設計変更の判断が遅れる。
- 設備との納まり調整が難しくなる。
- 工事監理者との確認タイミングが合わない。
- 検査前の是正対応が増える。
現場でよく起きるこうした課題は、施工管理者だけの努力では解決できません。設計者、工事監理者、設備設計者、発注者との連携があって初めて、現場はスムーズに進みます。
建築士の担い手確保は、現場の前工程を支える重要なテーマなのです。
「見て覚えろ」では専門人材が育たない
建築士資格の受験機会を広げることは、若い人が早い段階で建築業界に入るきっかけになります。
しかし、資格制度を緩和するだけで、専門人材が自然に育つわけではありません。
大切なのは、現場や設計実務の中で、若手が成長できる環境をつくることです。
建築士も施工管理者も、覚えることが非常に多い仕事です。
- 法規。
- 図面。
- 構造。
- 設備。
- 施工方法。
- 材料。
- 工程。
- コスト。
- 安全。
- 品質。
- 発注者対応。
- 行政対応。
- 検査対応。
これらをすべて、現場で怒られながら覚えるだけでは、若手は定着しにくくなります。
施工管理の現場でも同じです。
「とりあえず現場に出して覚えろ」
「先輩の背中を見て覚えろ」
「わからないなら自分で調べろ」
こうした育成だけでは、若手が仕事の全体像をつかむ前に疲弊してしまいます。
これからの建設業では、若手に経験を積ませるだけでなく、何をどの順番で学ぶのかを設計する必要があります。
最初は図面の見方や写真管理から始める。
次に、工程表や作業日報を理解する。
その後、職長との打ち合わせや安全指示を経験する。
さらに、設計者への質疑や発注者対応を学ぶ。
このように、段階的に任せることで、若手は現場の全体像を理解しやすくなります。
建築士法改正の背景にある担い手確保は、資格制度だけの問題ではありません。
設計も施工も、業界全体で若手を育て、定着させる仕組みが問われているのです。
契約適正化で「曖昧な仕事」は減っていく
今回の建築士法改正では、契約適正化に向けた規制強化も重要なポイントです。
建築士が設計・工事監理を行うすべての契約について、書面契約の義務範囲を広げる方向が示されています。これまでは面積要件などがありましたが、その撤廃が予定されています。
さらに、建築士事務所の開設者には見積書の作成、契約当事者には見積もり内容を考慮する努力義務が課される方向です。
これは、設計や工事監理の仕事を適正に評価し、契約内容を明確にするための動きです。
施工管理者にとっても、これは重要です。
なぜなら、現場でトラブルになりやすいのは、契約や役割分担が曖昧な部分だからです。
- 誰が図面を修正するのか。
- 誰が発注者に説明するのか。
- 設計変更の費用は誰が負担するのか。
- 追加検討は契約範囲に含まれるのか。
- 工事監理者の確認範囲はどこまでか。
- 現場で発生した変更を誰が承認するのか。
こうした点が曖昧なままだと、施工段階で調整が止まります。
特に民間工事では、設計変更や仕様変更、追加要望が途中で発生することがあります。そのとき、契約上の範囲や費用負担が不明確だと、施工管理者が板挟みになります。
発注者は「少しの変更」と考える。
設計者は「現場で調整してほしい」と考える。
施工会社は「追加費用が必要」と考える。
協力会社は「人手と材料が増える」と考える。
このズレを現場で吸収し続けると、工程も品質も苦しくなります。
契約適正化は、設計者を守るだけでなく、施工現場の混乱を減らすためにも重要です。
省エネ法改正でLCCO2評価が始まる

今回の建築物省エネ法改正で特に注目されるのが、LCCO2評価制度です。
LCCO2とは、ライフ・サイクル・カーボンの考え方に基づき、建築物の一生を通じて排出されるCO2を評価するものです。
これまで建築物の環境性能では、建物の運用時、つまり空調や照明などの省エネ性能に注目が集まりやすい傾向がありました。
しかし、脱炭素化を進めるには、運用時だけでは不十分です。
- 資材を製造するとき。
- 資材を運ぶとき。
- 建物を施工するとき。
- 建物を使うとき。
- 改修するとき。
- 解体するとき。
- 廃棄・リサイクルするとき。
こうした全段階で発生するCO2を見ていく必要があります。
今回の改正では、LCCO2評価の実施を建築主の努力義務とし、一定規模以上の新築・増築では国土交通省への届け出を義務付ける方向が示されています。また、登録された環境性能認証機関による第三者認証を受け、評価結果を表示できる制度もつくられる予定です。
これは、建築物の価値が「使っているときに省エネかどうか」だけでは判断されなくなることを意味します。
どの材料を使ったのか。
どこから運んだのか。
どのように施工したのか。
どのくらい長く使えるのか。
将来、改修や解体がしやすいのか。
こうした視点が、建築物の評価に関わってくるのです。
LCCO2は施工管理にも関係する
LCCO2評価と聞くと、設計者や建築主の仕事のように感じるかもしれません。
しかし、施工管理者にも関係します。
なぜなら、LCCO2評価では、施工段階の情報や資材情報が重要になるからです。
たとえば、現場では以下のような情報が必要になる可能性があります。
- 使用した建材の種類。
- 資材の数量。
- 資材の調達先。
- 搬入距離。
- 施工方法。
- 仮設の使用状況。
- 廃棄物の量。
- リサイクル材の使用有無。
- 設備機器の仕様。
- 変更後の材料情報。
これらは、設計図だけでは把握しきれない場合があります。実際に何を使い、どのように施工したかは、現場で記録する必要があります。
施工管理者が材料変更や仕様変更を記録していなければ、後から正確なLCCO2評価が難しくなる可能性があります。
たとえば、当初予定していた材料が納期遅延で変更になった場合。
施工途中で発注者の要望により仕上げ材が変わった場合。
現場条件により施工方法を変更した場合。
設備機器の仕様が変更された場合。
こうした変更は、工程やコストだけでなく、環境性能にも影響する可能性があります。
これからの施工管理者には、品質や安全のための記録に加えて、環境性能を説明するための記録も求められるようになります。
LCCO2は、設計段階の評価だけで完結するものではありません。現場での施工実績や変更履歴があって初めて、建物のライフサイクル全体を正しく評価できるのです。
建材選びも「安さ」だけでは決められなくなる
LCCO2評価が広がると、建材選びの考え方も変わっていく可能性があります。
これまでは、建材を選ぶ際に、価格、納期、性能、施工性が重視されてきました。
もちろん、これらは今後も重要です。
しかし、脱炭素化が進むと、そこにCO2排出量という視点が加わります。
- 製造時のCO2排出が少ない材料。
- リサイクル材を使った材料。
- 長寿命で更新頻度を減らせる材料。
- 運搬距離を短くできる地場材。
- 解体後に再利用しやすい材料。
- 省エネ性能に貢献する設備機器。
こうした材料や設備が選ばれやすくなる可能性があります。
一方で、低炭素建材は、従来材料より価格が高い場合もあります。納期が長い場合もあります。施工方法が変わることもあります。
そのため、施工管理者には、環境性能と現場実務のバランスを取る力が求められます。
低炭素材料を使うことで、工程に影響はないか。
協力会社が施工に慣れているか。
品質管理上の注意点はないか。
納期遅延のリスクはないか。
発注者にコスト増の説明ができるか。
脱炭素化は、理念だけでは現場に落ちません。
材料、工程、コスト、施工性、品質を含めて、現場で実現できる形にする必要があります。
建築設備士の制度見直しは設備工事にも関わる

今回の改正では、建築設備士の資格制度についても見直しが進められています。
建築設備士について、受験時の実務経験を不要とし、実務経験を登録時の要件とする制度を創設する方向です。
これは、設備分野の人材確保にも関わる重要な動きです。
建築現場では、設備工事の重要性がますます高まっています。
- 空調。
- 衛生。
- 電気。
- 換気。
- 給排水。
- 防災。
- 情報通信。
- 省エネ制御。
- 再生可能エネルギー。
- BEMS。
建物の環境性能や快適性、省エネ性能は、設備によって大きく左右されます。
LCCO2や省エネ性能が重視されるようになれば、設備設計や設備施工の重要性はさらに高まります。
施工管理者にとっても、設備工事との連携はますます重要になります。
建築工事が進んでから設備の納まりを考えるのでは遅い場合があります。天井内の配管、ダクト、電気配線、機器スペース、メンテナンス動線、試運転、性能確認などは、早い段階から調整が必要です。
設備人材の確保と育成は、建物の脱炭素化を進めるうえでも欠かせないテーマなのです。
これからの施工管理に求められる力
今回の建築関係2法改正から見えてくるのは、施工管理者に求められる役割の変化です。
これまで施工管理者は、工程、品質、安全、原価を管理する仕事として語られることが多くありました。
しかし、これからはそれに加えて、契約、環境性能、人材育成、設備連携、記録管理まで視野に入れる必要があります。
特に重要なのは、次の4つです。
一つ目は、設計者・工事監理者との連携です。
図面や質疑、変更対応、検査確認をスムーズに進めるためには、設計側との情報共有が欠かせません。
二つ目は、契約範囲を理解する力です。
どこまでが契約範囲で、どこからが追加変更なのかを曖昧にしないことが、現場の混乱を防ぎます。
三つ目は、環境性能を支える記録力です。
使用材料、数量、変更履歴、廃棄物、施工方法などを残すことが、LCCO2評価や将来の維持管理に関わります。
四つ目は、設備工事を早く巻き込む力です。
省エネ性能や脱炭素化が重視されるほど、設備の重要性は高まります。建築と設備を分けて考えるのではなく、初期段階から一体で調整することが必要です。
これからの施工管理は、単に現場を進める仕事ではありません。
建物の性能、契約の透明性、環境価値、将来の維持管理まで含めて、現場を成立させる仕事になっていくでしょう。
まとめ
建築士法改正と建築物省エネ法改正は、建築士や設計者だけに関係する話ではありません。
建築士法改正では、将来の建築士を確保するため、在学中受験や実務経験要件の見直しが進められています。また、設計・工事監理契約の適正化に向け、書面契約の対象拡大や見積書作成などのルール強化も予定されています。
一方、建築物省エネ法改正では、建物の脱炭素化を進めるため、LCCO2評価制度が創設される方向です。建物の運用時だけでなく、資材製造、施工、改修、解体まで含めたCO2排出量が評価対象になります。
これらの変化は、施工管理にも大きく関わります。
設計者や工事監理者との連携。
契約範囲や追加変更の明確化。
省エネ性能やLCCO2評価に必要な記録。
低炭素建材や設備仕様への対応。
設備工事との早期調整。
若手人材の育成と定着。
こうしたテーマは、これからの現場管理に欠かせなくなります。
建設業界は、人材不足と脱炭素化という大きな変化の中にあります。
これからの施工管理者には、工事を予定通り進めるだけでなく、建物の性能や環境価値、契約の透明性、人材育成まで含めて現場を見ていく力が求められます。
建築士不足への対応も、LCCO2評価も、省エネ化も、すべて現場とつながっています。
施工管理は、建物をつくる仕事であると同時に、これからの建築の価値を支える仕事になっていくでしょう。