民間発注者の4割が標準労務費の内容を知らない|職人単価が上がらない理由

2024年に建設業法が改正され、適正な工期や職人の労務費を守るためのルールが整えられました。
しかし、職人の単価が上がったと実感している人は、まだ少ないのではないでしょうか。
国土交通省が民間発注者に行ったアンケート調査では、工期や労務費のルールをどこまで知っているか、工事の発注にどんな変化があったかが明らかになりました。
そもそも民間発注者は、どこまでルールを理解しているのでしょうか?
そこで本記事では、次の3テーマを解説します。
- 国交省による民間発注者への実態調査
- 民間発注者の適正工期・標準労務費の理解度
- 民間発注者に広がるコスト増と人手不足の影響
民間発注者の約4割は標準労務費の内容を知りません。
ルールが見積もりの現場まで届いていない点は、職人単価が上がらない原因の一つです。
民間工事の見積もりや単価交渉に関わる人、工事会社の経営者は、ぜひ参考にしてください。
国交省が民間発注者の実態を調査

国土交通省は、令和7年度「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査」の中で、民間発注者にもアンケートを行いました。
主に民間工事の工期や、資材高騰への対応などの実態を調べたものです。
対象は電気・鉄道・住宅・不動産業界などの団体や企業で、有効回答は55社でした。
資本金100億円以上の企業も含まれており、名だたるデベロッパーの声も反映された調査といえるでしょう。
調査期間は2026年2月19日〜3月25日で、2024年12月以降に請け負った工事が対象です。
つまり、2025年に動いていた工事の実態が分かります。
出典:「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査(令和7年度)」の結果|国土交通省
民間発注者は適正工期・標準労務費を理解している?

民間発注者は、中央建設業審議会が定めた工期と労務費に関する2つの基準を、どこまで知っているのでしょうか?
工期に関する基準
工期に関する基準は、短すぎる工期で契約しないよう、考えるべき項目を示したものです。
例えば浅草で工事をするなら、三社祭のような地域のイベントを工期に織り込む必要があります。
この基準を「内容まで知っている」と答えた民間発注者は49.1%でした。
「名称は聞いたことがある」が29.1%、「全く知らない」は21.8%。
発注者の約半数は、基準の中身を知らないまま工期を決めていることになります。
標準労務費
標準労務費は、中央建設業審議会が勧告した「労務費に関する基準」の通称です。
職人の賃金のもとになる労務費の目安を示したもので、これを大きく下回る見積もりや契約は、改正建設業法で禁じられています。
標準労務費の計算方法や基準値については、以下の記事で詳しく解説しています。
標準労務費を「内容まで知っている」民間発注者は、58.2%でした。
「名称は聞いたことがある」が21.8%、「全く知らない」は20.0%。
つまり、約4割の民間発注者は、標準労務費の内容を知りません。
工事を頼む側がルールを知らなければ、標準労務費をもとにした見積もりを出しても、発注者と受注者で話がかみ合わないでしょう。
その結果、これまでと同じように値引きを求められ、職人の単価が上がらない状況が続いてしまうのです。
民間発注者だけでなく、工事を受ける建設会社側にも、標準労務費や工期の基準をよく知らない人がいる現状です。
お互いにルールを知らないまま見積もりをやり取りすれば、「大幅に値引きしました」と従来の交渉が続くかもしれません。
民間発注者に広がるコスト増と人手不足の影響

ルールの理解に加えて、民間発注者は資材高や人件費の上昇にも直面しています。
工事の発注には、どのような影響が出ているのでしょうか?
約3割が工事を発注できなかった
調査では、「発注できなかった・見送った工事がある」と答えた民間発注者が29.1%にのぼりました。
さらに21.8%が「一部の工事で規模縮小・延期を行った」と答えています。
例えば20階建ての計画を15階建てにする、今年の発注をやめて来年に回す、のような判断です。
複数回答のため単純に足せませんが、「特にそのような事例はなかった」は56.4%でした。
半数近くの民間発注者が、何らかの形で工事計画を見直しているのです。
見送りの理由はコスト増と人手不足
工事を見送った、または規模縮小・延期をした22社に理由を聞いた結果が、次の表です。
| 理由(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 物価・人件費高騰や資材調達難によるコスト増を許容できなかった | 68.2% |
| 受注者側の技能者・作業員の不足 | 50.0% |
| 希望する工期設定が困難だった | 22.7% |
| 入札不成立 | 13.6% |
最も多いのは、資材や人件費が上がったうえに、資材そのものが手に入らないことによるコスト増です。
次いで、半数の民間発注者が、職人や作業員の不足を理由に挙げました。
「希望する工期設定が困難だった」も、人手不足とつながっています。
建物を1年で建てたいと考えても、職人がいないうえに資材も入ってこなければ、工事会社から「1年では無理です」と言われてしまうのです。
コスト増と人手不足が重なり、建物そのものが建てにくくなっているといえるでしょう。
まとめ:民間発注者が標準労務費を理解しない限り、職人単価は上がらない
国土交通省の調査では、民間発注者の約半数が工期に関する基準を、さらに約4割が標準労務費の内容を知りませんでした。
建設業法を改正しても、工事を頼む側がルールを知らなければ値引きの交渉は変わらず、職人の単価は上がりにくいままです。
一方で、民間発注者の約3割は、コスト増や人手不足で工事を発注できなくなっています。
職人の単価を上げれば、工事のコストはさらに上がります。
発注者と受注者の双方が標準労務費を理解し、適正な価格と工期を話し合える関係をつくれるかどうかが、今後の課題なのかもしれません。
この記事の内容は、以下の動画で解説しています。あわせてご覧ください。









