国土交通省による「工事の適正執行のための勘所」長時間労働は問題と認識していた!

「公共工事は、書類が多くて大変…」
「発注者からの急な変更で、残業が増えてしまう…」
建設業界で働く多くの人が、こうした悩みを抱えているのではないでしょうか。
こうした問題は施工業者だけでなく、発注者である国土交通省も大きな課題として認識しています。
国土交通省九州地方整備局が職員向けに作成した「工事の適正執行のための勘所」。
この勘所は、公共工事における発注者と受注者の関係性をより良くし、長時間労働を是正するための重要な指針です。
本記事では「勘所」の内容を詳しく解説します。
発注者が何を考えどのような対応を求めているのかを知ると、施工業者もより円滑に工事を進められるようになりますよ。
「工事の適正執行のための勘所」概要
「工事の適正執行のための勘所」とは、国土交通省が自らの職員に向けて公共工事を適切に進めるための要点をまとめた内部資料です。
単なる業務マニュアルではなく、建設業界全体の労働環境を改善しようという思いが伝わります。
勘所が作られた背景を、資料内では以下のように説明しています。
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国土交通省は、平成19年に住民、発注者、施工者の三方に利益をもたらす「三方よしの公共事業改革」を宣言し、九州地方整備局でも公共事業の円滑化を図り、住民のために安全で良好な品質の公共施設の提供を目標とした「いきいき現場づくり」を実践しているところです。
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原点となるのは、近江(滋賀県)商人の心得・方針です。
売り手と買い手だけでなく、世間までもが満足できる状態を指します。
三方よしを実現するには、発注者である国交省職員が、受注者である施工業者の立場を理解しなければなりません。
このように工事の適正執行のための勘所では、発注者と受注者そして住民が満足する公共事業を目指しています。
工事の適正執行のための勘所では長時間労働を問題視している
工事の適正執行のための勘所の中で特に重要なテーマとなっているのが、長時間労働の是正です。
具体的には受注者(施工業者)から寄せられた、以下の声が長時間労働の一因とされています。
- 設計修正が多い
- 設計書の内容と現場の条件が異なる
- 発注者からの指示が遅れる
- 書類や資料の提供が多い
つまり発注者の要望対応により施工業者の残業が増えている、と国土交通省も認識しています。
2024年4月から建設業にも適用が開始された改正労働基準法(時間外労働の上限規制)についても、勘所では注意喚起。
万が一、改正労働基準法に違反した場合、受注者にも発注者にも影響が及びます。
施工業者(受注者)への罰則
- 30万円以下の罰金または半年以下の懲役
- 労働基準監督署からの是正勧告
- 文書注意や指名停止といった処分の可能性
国土交通省が施工業者に対して入札の制限をすれば、受注への影響が考えられます。
受注者である施工業者にとっては、死活問題です。
さらに長時間労働の原因が発注者の不適切な対応にある場合についても、勘所では言及しています。
発注者の指示が原因で残業規制が守れなかったのであれば、国土交通省側の責任も問われかねません。
長時間労働の是正は、もはや施工業者だけの問題ではありません。
手間がかかる要求を発注者がすれば長時間労働になるので、適正な工事執行が重要です。
留意点1:30%ルールを理由に設計変更NG・打ち切り竣工は不可
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変更が3割を超えたことを理由に「設計変更に応じない」「打ち切り竣工」などはあってはならない
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「変更が3割を超える」は、公共工事における30%ルールを指しています。
例えば1億円で受注した工事は、1億3,000万円までの費用増額が認められているルールです。
30%を超える場合は、別工事として発注しなくてはなりません。
つまり正当な理由がある設計変更を拒否することは認められない、としています。
「3割を超えたから増額は認めない」「当初の契約内容で完成させて!」などの言動はNGです。
目的物の構造特性や現場条件から分離発注が難しい一体不可分な工事もあります。
例えばトンネル工事の途中に、湧水や軟弱地盤で追加工事が必要なケースです。
このような工事については、当初の工事の中で適切に増工設計変更を行うべきだと示しています。
形式的なルールにとらわれて、施工業者に負担を強いてはいけません。
30%ルールにも柔軟に対応し、設計変更不可や打ち切りにするのはNGです。
留意点2:一方的な当初数量減の変更
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変更において、一方的な当初数量減は厳に慎むこと
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例えば塗装工事。
当初は5,000平米分施工予定でした。
発注時に概略発注し正確な数量を拾わなかったため、一方的に「4,000平米で!」と減らしてはいけません。
※数量・拾うのワードに疑問がある人は、以下の記事をあわせてお読みください。
数量を大幅に変更すると、入札の公平性にも影響が出ます。
「4,000平米でよかったの?それならこの金額では入札しなかった!」と、受注者は不利益を被りますよね。
やむを得ず数量減となる場合は、事前に受注者へ丁寧な説明をし合意を得るよう、工事の適正執行のための勘所には記されています。
対等な立場での議論が重要です。
まとめ:工事の適正執行のための勘所は良い関係を築く大事な指針
国土交通省九州地方整備局が作成した「工事の適正執行のための勘所」では、公共工事における長時間労働を問題であると認識。
発注者側の不適切な要求が長時間労働につながる点も、課題として把握していました。
さらにこの勘所では、30%ルールを理由にした禁止事項や一方的な数量減NGなどを、留意点として挙げています。
発注者である国土交通省と受注者である施工業者が、対等な立場で公共工事を進められる大事な指針となるでしょう。
その他の勘所留意点については、以下の記事で解説しています。
この記事の内容は、以下の動画で解説しています。あわせてご覧ください。