公共工事の適正執行で長時間労働を是正へ!国土交通省の勘所が前例主義を打破

公共工事の現場で「前例がないから認められない」と言われた経験はありませんか?
前例にとらわれて、費用負担や長時間労働に悩まされた施工業者もいるでしょう。
国土交通省九州地方整備局が公開している「工事の適正執行のための勘所」。
この勘所では、前例にとらわれない柔軟な対応について記載されています。
これには長時間労働是正や施工業者の負担軽減などの目的があります。
本記事では、勘所が挙げる留意点を3つ紹介。
具体例を元に、前例にとらわれない設計変更の必要性を解説します。
公共工事に携わる施工業者のみなさんは、ぜひ最後までお読みください。
工事の適正執行のための勘所概要については、以下記事にて解説しています。
前例にとらわれない設計変更で費用負担減・長時間労働是正
工事の適正執行のための勘所では、前例にとらわれない設計変更を挙げています。
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過去の変更事例に関わらず、適切な理由で現場施工されたものは設計変更の対象とする
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公共工事において、適切な理由・施工業者の責任でない設計変更は、前例にとらわれてはいけません。
土木施工業者で、以下のような経験をした人はいませんか。
土を掘って構造物を作る工事中、水が湧き出てきました。
水があると鉄筋や型枠の設置、コンクリート打設ができません。
水を排出するために、水替えポンプ5台が必要になりました。
しかし発注者は、ポンプ1台分の費用しか計上しておらず、「1台分しか認められない」と主張。
過去に同様の工事があった際にも同じように5台必要だったが、そのときも業者が泣き寝入りしていた前例があったからです。
そのため今回だけ特別に5台分を認めると、過去との整合性が取れなくなるという理由で追加分を認めませんでした。
「前例がなければできません」という前例主義。
しかし工事中に水が出てきてしまうのは、施工業者の責任ではありませんよね。
前例にとらわれて、施工業者に不当な金銭的負担や、長時間労働を強いてはいけません。
適正な理由で施工しているならば、前例にとらわれない設計変更が重要です。
長時間労働を是正目的のプレキャスト採用
現場打ちとプレキャストについても、工事の適正執行のための勘所で挙げています。
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運搬可能な規格の製品であれば、現場打ちとの経済比較なしでプレキャストを採用してよい
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コンクリートの構造物を作るときの方法です。
現地で鉄筋を組む→型枠を組み込む→コンクリートを流す→固まったら枠を外す
この流れで完成される工法です。
現場でコンクリートを打つため、現場打ちといいます。
一方プレキャストとは、工場で作成するイメージです。
別の場所でコンクリート構造物を作成し、現場に配置します。
従来は、現場打ちとプレキャスト、どちらの方が費用は安いか比較していました。
しかし工事の適正執行のための勘所では、運搬できればOKとしています。
勘所の大きな目的は、長時間労働の是正。
施工業者にとって負担の少ないプレキャストを、費用の比較なしに採用許可しています。
大型プレキャストの場合
ちなみに先ほどのルールは中型プレキャストの場合です。
大型プレキャストの場合は、VFM比較が必要とされています。
費用に対して最も価値が高い、の意味があります。
- 工期が早い
- 安全性が高い
- 今後のメンテナンス費用が安い
- 環境負荷が少ない
- 景観が良い
例えば以上のような例が、価値が高いとされています。
承諾の有無
今まではプレキャストの場合、発注者である役所の承諾が必要でした。
さらにプレキャストの方が高ければ、費用負担は施行者側とされていました。
しかしプレキャストへの設計変更についても、前例にとらわれず発注者が費用を負担します。
プレキャストの場合、費用は高いけど長時間労働の是正につながるケースもあるでしょう。
施工業者の負担を減らすために、勘所では変更を可能としています。
公共工事で認められる監理技術者の交代
技術者の交代についても、勘所に明記されています。
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やむを得ない事情や一定の区切りが認められる場合は、監理技術者は交代してよい
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やむを得ない場合とは、以下の3つの状況です。
- 監理技術者の病気・死亡・退職
- 受注者の責任ではない工期延長
- 工程上の区切り
受注者の責任ではない工期延長とは
例えば1年の工期でAさんが監理技術者として働いていた場合です。
しかし発注者の都合で、工期が1年半に延長。
Aさんは別の工事の予定が入っています。
このようなケースでは、監理技術者の交代が認められます。
工程上の区切りとは
比較的重要な施工が終わっていれば、監理技術者は交代できます。
例えば構造物が完成して、残る作業は埋め戻しと後片付けの場合です。
この場合は一定の区切りが認められます。
監理技術者についてはマニュアル改正も行われています。
詳しくは以下の記事をお読みください。
まとめ:国土交通省も公共工事の長時間労働の是正に力を入れている!
現場の状況は1つ1つ異なります。
「前例がないから」「昔もそうだったから」と柔軟な設計変更が認められないのでは、施工業者にとって負担です。
しかし公共工事の長時間労働は是正していくべきだと、国土交通省も認識しています。
「工事の適正執行のための勘所」では、現場実態を踏まえた対応を求めています。
今後の公共工事では、前例主義ではなく、現場に即した判断がより一層求められるでしょう。
施工業者と発注者が歩み寄り、より良い工事を目指すための「勘所」が活かされていくといいですね。
この記事の内容は、以下の動画で解説しています。あわせてご覧ください。