建設業界の単価の地域格差はどうして生まれた?愛知県と大阪の低単価を考察

「同じ建設業界なのに地域で格差があるのはなぜ?」
職人単価について、このような疑問を抱いた経験はありませんか?
同じように1日働くのに、東京都と大阪府で単価に違いがあると、ちょっと損した気持ちにもなりますよね。
そこで本記事では、建設業界の単価の地域格差について解説しています。
実はこの単価の地域格差、値切り文化や建設会社の密集による競争が原因です。
髙木健次さんの建設ビジネスを参考に、愛知県と大阪府を例に挙げて考察します。
建設業界の「なぜ?」を知りたい人、もっと知識を深めたい人はぜひ最後までお読みくださいね。
建設業界単価の地域間格差の状況

建設業界における職人の単価について、地域間で大きな格差が生じています。
厚労省統計で建設業就業者の賞与・残業代込みの年収を都道府県別に比較してみると
髙木健次著「建設ビジネス」
大阪府と愛知県の年収水準が経済規模や就業者数と比較してあまり高くないことがわかります
大阪府と愛知県は東京都と並ぶ大都市。
それにもかかわらず、賃金が安い状況です。
この地域間格差は、「東高西低」(東は単価が高く、西は低い)の傾向があります。
分かりやすい資料が、国土交通省が公表する公共工事設計労務単価(公共工事で職人の単価を算出する際の基となる単価)。
この資料によると、就業者数が最も多いとされる電工(電気工事)の単価は、東京や宮城などの東日本が高い水準にあります。
一方で、愛知や大阪・京都などの西日本は低い水準です。
参考:令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について|国土交通省
大阪ではなく他の地域の仕事を請けたい、とよく聞きます。
この背景は、大阪の単価の安さでしょう。
電工の単価を15年間で比較すると、宮城県・東京都・福岡県は伸び率が高い傾向にあります。
しかし大阪府や愛知県では停滞気味。
東京と大阪の間では、単価の差が年々拡大しています。
15年前は1日あたり960円程度の差だったものが、現在では5,800円(約6倍)にまで開いています。
もし年間240日稼働すると仮定した場合、東京と大阪では年間で約139万円(約140万円)もの差が生じている計算です。
労務単価は全体としては上昇傾向にあるものの、地域間格差は拡大し続けているといえます。
なぜ建設業界では大阪府と愛知県で単価が安いのか?

大阪府と愛知県で単価が低い原因について、髙木さんは複数の専門家への聞き取りをしています。
しかし明確な原因を特定するデータはなく、主に以下の仮説が得られました。
低単価の考察①:値切り文化
大阪府のある関西圏には独特の値切り文化があります。
愛知県にはそのような文化はありませんが、自動車産業のコスト削減圧力は強く残っています。
「乾いた雑巾を絞る」という例えが使われています。
これは徹底したコスト削減の意味です。
低単価の考察②:密集による価格競争
著者である髙木さんは、地域密集に仮説をたてます。
建設会社は特定の地域に密集する傾向があるためです。
- 東京都:江戸川区や足立区
- 神奈川県:川崎市
- 大阪府:堺市から岸和田市にかけた府南部エリア
とくにこの府南部エリアでは、個人事業主が多くいて、人口に占める建設業関係者も高い割合。
ライバルが周囲に多いため、小さい会社同士で足を引っ張り合い、価格競争が生じているのではないかと髙木さんは推測します。
他にも愛知県なら豊橋市や一宮市が挙げられます。
値切りに関する独特の文化も地域格差になる

関西圏では、値切りに関する独特の文化が存在します。
美容室ですら値切るなんて噂も、過去にはありました。
1回、2回程度の割引余地を見込んで、見積もる習慣です。
一方で関東圏では、最初に出した見積もりがそのまま通る認識が、関西よりも比較的強いでしょう。
値切りへの感覚の違い・圧力の強さが、単価の地域間格差を助長する一因となっている可能性も考えられます。
建設会社の利益率を上げるには

著者である髙木さんは、建設会社が利益率を改善するために、厳しい競争環境から脱却するための戦略が必要であるとアドバイス。
具体的には、地域密着について呪いの言葉になるとまで指摘しています。
建設会社が密集地域に位置し、「地域密着」を掲げて仕事を続ける戦略。
これは裏を返すと、レッドオーシャン(激しい競争の場)で戦い続けることを意味します。
したがって低い利益率に留まらないためには、幅広い地域の案件を取るように、営業エリアを広げるのを推奨します。
まとめ:建設業界では価格競争と独特の文化で単価の地域格差が生まれていた
大阪府と愛知県の建設業における単価が安いのは、地域特有の競争環境、すなわち建設会社密集による価格競争が主要な原因です。
それに加えて関西圏特有の値切り文化や、愛知におけるコスト削減圧力が複合的に作用しているためと考えられるでしょう。
この結果、東京都のような東日本との単価格差は年間140万円近くにも及び、その差は拡大しています。
建設会社は、競争の激しい特定の地域に固執してはいけません。
地域密着の考え方から脱却し、より広い地域で案件を獲得していくことが、利益率改善の鍵となるでしょう。
建設業界では単価の地域格差だけでなく、口頭契約も問題になっています。
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