インフラを守る会社が足りない?施工管理が知るべき維持管理の担い手不足
道路、橋、上下水道、河川、公共施設。
地域の暮らしを支えているインフラは、日々の点検や補修、緊急対応によって守られています。
しかし今、その維持管理を担う建設会社や受注者側で、人員不足や体制維持の難しさが深刻になっています。
国土交通省の調査では、地方自治体が発注するインフラの維持管理・更新業務を受注する建設会社などが、
人手不足、24時間対応体制の維持の難しさ、利益率の低さといった課題を抱えていることが明らかになりました。
インフラ老朽化が進めば、今後は点検、補修、更新、災害対応の需要がさらに増えていきます。
それにもかかわらず、その仕事を引き受ける側の体制が弱っていけば、地域インフラを守る仕組みそのものが不安定になります。
この問題は、単に「建設会社が忙しい」という話ではありません。
施工管理者にとっても、これは非常に重要なテーマです。
なぜなら、維持管理の現場では、限られた人員で多くの現場を回し、緊急対応と通常業務を両立し、自治体との調整まで担う必要があるからです。
この記事では、国交省調査をもとに、なぜインフラメンテナンスの担い手不足が起きているのか、施工管理者にどのような影響があるのか、そして今後どんな仕組みが必要になるのかを考えます。
参考にした記事:人員不足や体制維持に課題/自治体のインフラメンテ受注者/国交省調査(日刊建設工業新聞)
維持管理の仕事は「なくならない」のに、人が足りない

地域インフラの維持管理は、一時的な需要ではありません。
- 道路は日々傷みます。
- 橋は定期的な点検が必要です。
- 側溝や河川施設は清掃や確認が必要です。
- 上下水道は老朽化すれば更新が必要になります。
- 災害が起きれば、応急対応も必要になります。
つまり、維持管理の仕事は、景気に左右されにくく、地域にとって常に必要な仕事です。
それでも担い手が不足している理由は、仕事があることと、仕事を引き受けられることが別だからです。
受注者側では、
- 技術職員が足りない
- 若手が入ってこない
- 入っても定着しにくい
- 夜間や休日の緊急対応に人を張り付けるのが難しい
- 他の新築・改修工事と人員を取り合う
- 小規模案件が多く、利益が出にくい
といった課題があります。
特に地方の建設会社では、限られた人数で新築工事、補修工事、除雪、巡回、災害対応まで担っているケースも少なくありません。
そのため、「必要な仕事だから受けたい」という気持ちがあっても、実際には人が足りず、十分に受けきれない状況が起きています。
施工管理者にしわ寄せが集まりやすい

維持管理業務で人員不足が起きると、現場で最も負担を抱えやすいのが施工管理者です。
なぜなら、施工管理者は単に工事を監督するだけでなく、維持管理では次のような役割を一手に引き受けることが多いからです。
- 現地確認
- 自治体との打ち合わせ
- 緊急時の初動対応
- 協力会社や作業員の手配
- 交通規制や安全対策の段取り
- 写真や報告書の作成
- 小規模補修の原価管理
- 通常工事とのスケジュール調整
たとえば、昼間は通常の補修工事を進めながら、夜間や早朝には道路陥没や漏水の緊急連絡に対応することもあります。
災害時には、現場確認、通行規制、応急復旧、自治体報告を短時間で回さなければなりません。
こうした業務は、少人数の会社ほど特定の人に集中しやすくなります。
結果として、
- 一人の施工管理者に仕事が偏る
- 休日でも電話対応が発生する
- 通常業務と緊急対応が重なって疲弊する
- 書類作成が後回しになる
- 若手育成まで手が回らない
という悪循環が起きやすくなります。
維持管理の担い手不足は、施工管理者個人の働き方や継続就業にも直結する問題なのです。
維持管理は「利益が出にくい仕事」になりやすい
調査では、受注者側の課題として「他業務より利益率が低い」という声も多く挙がっています。
これは維持管理業務の構造的な特徴と関係があります。
維持管理の仕事は、1件ごとの規模が小さいことが多くあります。
巡回、清掃、小規模補修、点検、応急対応などは、ひとつひとつの金額が大きくない一方で、移動や準備、段取り、安全対策、報告書作成といった手間はしっかりかかります。
しかも、緊急対応では予定どおりに進まないことも多いです。
- 現場に行って初めて状態が分かる
- 追加作業が発生する
- 夜間・休日の対応になる
- 住民対応が必要になる
- 応急対応後に本復旧が別途必要になる
こうした業務は、見積時点で読み切れない部分が多く、採算管理が難しくなります。
さらに、公共発注では書類や手続きが一定レベルで求められるため、小規模な仕事でも事務負担は軽くありません。
つまり、維持管理は社会的に重要でありながら、現場の感覚としては「手間の割に利益が出にくい仕事」になりやすいのです。
この状態が続けば、会社としても人員や設備を維持しにくくなります。
24時間対応を地域建設業だけに背負わせるのは限界がある
インフラ維持管理では、平時だけでなく、緊急時に対応できる体制が求められます。
- 道路陥没。
- 漏水。
- 大雨後の法面崩落。
- 河川施設の異常。
- 冬場の除雪。
- 地震や台風後の点検。
こうした対応は、地域建設業が担っていることが多くあります。
しかし、24時間いつでも動ける体制を維持するのは簡単ではありません。
- 待機要員を確保する必要がある。
- 連絡が来たらすぐ現場へ向かう必要がある。
- 重機や車両を出せるようにしておく必要がある。
- 通常工事の人員とも調整が必要になる。
これを少人数の会社が継続するのは、かなり大きな負担です。
しかも、こうした待機体制や地域貢献は、目に見える売上として評価されにくいことがあります。
施工管理者の視点で見ても、緊急対応できる会社が地域に残っていなければ、災害時の復旧速度や日常の安全性に大きく影響します。
だからこそ、地域建設業の体制維持を「各社の努力」に任せるだけではなく、制度や発注の側から支える必要があります。
包括委託や長期契約はなぜ重要なのか
調査では、受注者側から包括委託や長期契約、契約・発注方式の見直しを求める声も出ています。
これは非常に重要なポイントです。
従来のように、細かい業務ごとに単年度で細切れ発注をしていると、受注者側は毎回入札や契約対応を行わなければならず、事務負担が大きくなります。
また、来年も同じ業務があるか分からなければ、人員計画も立てにくくなります。
一方で、一定期間を見据えた包括委託や長期契約があれば、
- 会社として人を張り付けやすい
- 技術者を育成しやすい
- 必要な機材や車両を維持しやすい
- 地域ごとの維持管理ノウハウが蓄積しやすい
- 発注者側の事務負担も減らしやすい
というメリットがあります。
施工管理者にとっても、契約が短く細切れだと、その都度ゼロから段取りする必要がありますが、一定期間の継続業務であれば、地域の状況を踏まえた改善や平準化がしやすくなります。
維持管理の仕事は、単発で切り出すより、継続的に担える仕組みの方が合理的なのです。
発注者支援と書類簡素化が現場を助ける

今回の記事では、受注者側から発注者支援制度や書類簡素化を求める声も挙がっています。
これは、受注者だけでなく発注者側も人手不足だからです。
自治体の技術職員が少なければ、
- 発注仕様が曖昧になる
- 現場確認に時間がかかる
- 設計変更の判断が遅れる
- 協議が長引く
- 受注者に確認が集中する
といったことが起こります。
その結果、施工管理者が調整役として多くの時間を割くことになります。
また、小規模な維持管理業務でも、過剰な書類や細かな事務手続きが求められると、現場を回す時間より事務作業の時間の方が重く感じられることもあります。
もちろん、品質や透明性のために必要な書類はあります。
しかし、維持管理の実態に合った形で、過度な負担を減らすことも必要です。
施工管理者が本来力を発揮すべきなのは、現場の安全確保、補修判断、地域対応、緊急対応です。
書類のために現場が回らなくなる状態は、本末転倒です。
地域建設業を守ることは、地域インフラを守ること
この問題の本質は、単に受注者不足ではありません。
地域建設業が維持できなくなれば、地域インフラを守る力そのものが弱くなる、ということです。
新築工事だけなら、広域から応援を呼べる場面もあります。
しかし、日常の巡回、側溝清掃、小規模補修、漏水対応、除雪、災害時の初動対応は、やはり地域に根ざした会社でなければ難しい部分があります。
どこが危ないか知っている。
どの道路が生活道路として重要か分かっている。
雨が降ると崩れやすい場所を知っている。
連絡が来たらすぐ動ける。
こうした地域密着の力は、一朝一夕ではつくれません。
施工管理者もまた、地域の現場を通じて経験を蓄積しています。
維持管理では、図面だけでは分からない現場が多く、地域を知っていること自体が技術力になることもあります。
だからこそ、地域建設業を守ることは、地域のインフラ安全保障を守ることでもあるのです。
施工管理者がこれから意識すべきこと
こうした状況の中で、施工管理者に求められる視点も変わっていきます。
まず大事なのは、維持管理業務を単なる小規模工事と見ないことです。
点検、巡回、補修、緊急対応は、地域の暮らしを支える基盤業務です。
次に、記録と標準化です。
人が少ないほど、個人の経験だけに頼る運営は限界があります。
- よく起きる不具合の対応手順
- 地域ごとの注意箇所
- 緊急時の連絡体制
- 使用資材や工法の記録
- 過去の補修履歴
こうした情報を残すことが、次の担当者や若手育成にもつながります。
さらに、発注者との対話も重要です。
現場でどんな負担があるのか、どの手続きが重いのか、どの契約方式なら回しやすいのかを、受注者側から伝えていく必要があります。
そして最後に、若手が続けられる体制を意識することです。
維持管理は地域に必要な仕事ですが、特定の人に負担が集中する仕組みのままでは、若手は定着しません。
持続可能な維持管理のためには、現場の技術だけでなく、働き方の設計も必要です。
まとめ
国土交通省の調査から、自治体発注のインフラ維持管理・更新業務を受注する建設会社が、人員不足、24時間体制維持の難しさ、利益率の低さなどの課題を抱えていることが見えてきました。
今後、インフラ老朽化に伴ってメンテナンス需要は増えていきます。
しかし、その担い手となる地域建設業や施工管理者の体制が弱ければ、必要な維持管理を安定的に続けることはできません。
この問題に対応するには、
- 包括委託や長期契約の導入
- 随意契約の柔軟な活用
- 発注者支援制度の拡充
- 物価上昇を踏まえた価格・単価対応
- 書類簡素化
- 新技術導入への支援
- 地域建設業を維持するための支援強化
といった仕組みづくりが必要です。
施工管理者にとっても、これは遠い政策の話ではありません。
日々の現場の負担、緊急対応、若手育成、会社の継続性に直結するテーマです。
これからの建設業では、「つくる力」だけでなく、守り続ける体制をどう維持するかがますます重要になります。
地域インフラを守る会社が残らなければ、地域の安全も暮らしも守れません。
だからこそ今、維持管理の担い手をどう支えるかが問われているのです。
