広がる土木と建築の格差!職人にも影響大の退職金・社会保険の現状
この記事は以下の記事の続きです。
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同じ建設業界でありながら、土木と建築の格差がどんどん広がっています。
土木と建築では、具体的にどのような待遇の差が起きているのでしょうか?
前記事では次の4つを取り上げました。
- 週休二日
- 賃金アップ
- 請負金額
- 工事設計労務単価
今回は続きとして、残り6つの格差を紹介します!
建築と土木の格差5. BIM/CIM
建築と土木の格差5つ目は”BIM/CIM”です。
BIM/CIMは建設事業において3D工事のモデルを取れ入れることを指します。
各正式名称は次の通りです。
- BIM:Bulding Information Modeling
- CIM:Construction Information Modeling
Buldingは建築、Constructionは土木を表しており、BIMは建築物を作る際に、3Dモデルを活用すること。
CIMは土木系の工事をする際に3Dモデルを活用することを指します。
従来はCADを使用した2D図面が主流でしたが、今後は3Dモデルに切り替えていこうということですね。
立体的に図面が表現されるので、若い人が入ってきても工事のイメージがつきやすい、作業が効率化される等のメリットがあります。
このBIM/CIMですが、結論から言うと土木では導入が進んでいる一方で、建築はあまり導入が進んでいません。
なぜ土木の方は進んでいるのでしょうか。
それは、次の通り国土交通省が令和5年度からやると明言しているためです。
“全ての詳細設計・工事で原則適用”と書かれている通り、発注図面がBIM/CIMで上がってくるようになります。
たとえ受注側がやりたくなくても、発注図面がBIM/CIMで頒布されたらやらざるを得ないということです。
このように土木におけるBIM/CIM導入は半ば強制という流れにまできています。
地方自治体や、都道府県、市町村に関してはやや遅れるかもしれませんが、行政の最上位団体である国土交通省が言う以上、導入は時間の問題でしょう。
では建築でのBIMの導入はと言うと、現場ではなかなか進んでいないのが現状です。
設計の方ではある程度導入され、大手でも取り入れられていますが、土木に比べるとまだまだと言ったところ。
BIM/CIMが作業効率化の鍵を握るのだとしたら、建築は土木に後れを取っている形になります。
これもれっきとした格差と言えるでしょう。
国土交通省では生産性向上を目指し、測量・調査から設計、施工、監督・検査、維持管理・更新までの建設生産・管理システムの各段階において ICT 等の活用や規格の標準化を行っています。
特にICT 等の活用においては、一部分だけを最適化するのではなく、全体の最適化が重要と考えられています。
そこで、一連の建設生産・管理システムの各段階においてBIM/CIMを導入し、全体最適化に向けた 3 次元データの活用を検討することとなりました。
BIM/CIMが導入されれば、情報共有システムを通じた関係者間の情報の円滑な共有や、適宜の更新作業も可能となり、一連の業務の効率化・高度化に繋がると考えられています。
建築と土木の格差6. 建設キャリアアップシステム(CCUS)
建築と土木の格差6つ目は”建設キャリアアップシステム(CCUS)”です。
建設キャリアアップシステム(CCUS)とは、技能者1人1人の就業実績・資格を登録するためのシステムっです。
技能の公正な評価、工事の品質向上、現場作業の効率化を目的としています。
具体的には、職人さんが現場入りする際にICカードを機械にタッチしてもらい、いつ・どこ・どの立場で働いたのかを日々の就業実績としてデータベースに蓄積していきます。
こちらも国土交通省は令和5年度から”あらゆる工事におけるCCUS完全実施”を明言しています。
では建築はどうかと言うと、まず建設キャリアアップシステム(CCUS)は義務でも何でもありません。
さらに元請けは、職人さんが1回カードタッチするごとに10円のコストがかかってしまいます。
1日1,000人が動くような大きな現場では、1日1万円、20日で20万円となり、元請けには相当の負担となります。
その上、いろいろ複雑な操作が必要になると、建築側にとって建設キャリアアップシステム(CCUS)を導入するメリットはないに等しいのです。
したがって、建設キャリアアップシステム(CCUS)もBIM/CIMと同様、土木では導入が推進されるものの、建築ではなかなか進まない事態になるでしょう。
建築と土木の格差7. 建退共(建設業退職金共済制度)
建築と土木の格差7つ目は”建退共(建設業退職金共済制度)”です。
建退共とは、職人さんの退職金制度のことです。
日本国内で退職金制度は義務ではありませんが、建退共に関しては公共工事ではほぼ義務とされています。
よって、公共工事に関わる土木の職人さんには自動的に退職金が入ってくる仕組みが整っているのです。
ところが建築の場合は、完全に会社次第となるので、当然建退共に加入しない会社もあります。
つまり建築の職人さんは、土木の職人さんより退職金を得られない可能性が高くなるということです。
これも土木と建築の大きな格差と言えるでしょう。
建築と土木の格差8. 社会保険
建築と土木の格差8つ目は”社会保険”です。
現在は偽装1人親方の問題もあり、職人の社会保険への加入が重要視されています。
国土交通省は個人の社会保険の加入を推進するため、現在、公共工事においては社会保険の加入状況をしっかりチェックしています。
よって、建設会社に雇用されている人で、なおかつ公共工事メインの土木の人達は基本的に社会保険に加入することとなります。
しかし建築は民間工事がメインのため、社会保険の加入状況はそこまで厳密にチェックされていません。
このようなところで、社会保険の加入状況も土木と建築で差が生じているのが現状です。
金銭面だけでいえば、「社会保険に入りたくない」という意見もあるかと思います。
しかし法律上、社員として指揮命令を受けて働いてる以上は社会保険に入らなければなりません。
そういったコンプライアンス面でも土木の方はきちんと担保される、建築はそうではないということですね。
建築と土木の格差9. 下請け制限
建築と土木の格差9つ目は”下請け制限”です。
下請け制限とは、下請けを1次~2次までに制限することを指します。
3次以降の下請けになると、利益がきちんと還元されない可能性があるため、このような制限が取られています。
つまり下請け制限とは、社員の良好な待遇を維持するための制度なのです。
その下請け制限も、役所側はルールとして運用している一方、民間の建築では特にルール化されていません。
つまり、土木では2次以降の下請けがいないために、中抜きへの懸念が少ない。
しかし建築では5次、6次の下請けが存在する可能性が大いにあるということです。
建築と土木の格差10. ICT施工
建築と土木の格差、最期の項目は”ICT施工”です。
ICT施工とは、情報通信を使った施工を指します。
これも国土交通省は積極的に導入していますが、建築では発注者から導入するようにとの指導はありません。
最先端技術の導入に関しても、積極的な姿勢の役所に対し、民間では消極的という傾向が見られています。
土木と建築の格差を生む決定的な要因
ここまで10個の土木と建築の違いを紹介しました。
しかしなぜ、このような格差が生まれてしまうのでしょうか?
それは、土木は発注者が役所、建築は発注者が民間企業という発注者の違いが決定的な要因です。
この結果、建設業界における土木と建築の2大分野において目立った格差が見受けられる事態となっています。
まとめ
前回に引き続き、”土木と建築の格差”をテーマに、格差を生み出す原因となっている土木と建築の違いを紹介しました。
記事内で紹介した土木と建築の違い10個は次の通りです。
- 週休二日
- 賃金アップ
- 請負金額
- 工事設計労務単価
- BIM/CIM
- 建設キャリアアップシステム(CCUS)
- 建退共(建設業退職金共済制度)
- 社会保険
- 下請け制限
- ICT施工
今後も土木と建築の格差が広がるかどうかはわかりません。
しかし建設業界にお勤めの方、興味のある方はぜひこのような現状を知っておきたいものです。
この記事の内容は以下の動画で解説しています。
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