最低制限価格制度とは?目的・仕組み・総合評価方式との違いをわかりやすく解説
公共工事の入札で頻繁に登場する「最低制限価格制度」。
名前はよく聞くけれど、「意味や仕組みがよくわからない」「最低価格との違いは?」と感じる人も多いのではないでしょうか。
最低制限価格制度は、安すぎる入札を防ぎ、品質・安全・人材確保を守るための重要制度です。
建設業界の入札や施工管理、そして現場の働き方にも大きく影響する仕組みであり、制度理解は今や必須と言えます。
本記事では、基本の仕組み・算出方法・メリット・課題・総合評価方式との違い・働き方への影響まで、わかりやすく網羅的に解説します。
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最低制限価格制度とは?基本的な意味と目的

国交省が導入した“ダンピング防止”のための価格制度
最低制限価格制度とは、公共工事の入札において、一定の価格ライン(最低制限価格)を下回る入札を自動的に失格とする制度です。
目的は、ダンピング(不当に安い価格での競争)による品質低下・安全軽視・人材へのしわ寄せを防ぐこと。
公共工事は税金を使って行うため、品質・安全・持続性が何より重要です。安さだけを追求すると、長期的なコストや事故リスクが高まるため、国交省が中心となって制度が導入されました。
不当に安い入札を防ぐことで、品質・安全・人件費を守る仕組み
最低制限価格の導入により、以下のような悪影響を防ぐことができます。
最低制限価格が守るもの
- 手抜き工事・品質低下
- 労務費削減による賃金の低下
- 安全対策や現場管理の軽視
- 下請け・技能者への過剰な負担
- 人材流出・技術継承の断絶
つまり制度は、“安すぎる工事”から現場を守る安全装置の役割を果たしているといえます。
いつから導入された?制度の歴史と背景
最低制限価格制度は、1980年代後半から導入が進みました。バブル崩壊後、公共工事の価格競争が激化し、採算を度外視した入札が社会問題となったことが背景です。
その後、低入札価格調査制度や総合評価方式とともに、「価格だけでない健全な入札制度」をつくる改革が継続的に進められています。
最低制限価格はどう決まる?算出方法と基本構造

最低制限価格の計算式(直接工事費・共通費・一般管理費)
最低制限価格は、以下のような計算式に基づいて決められます。
最低制限価格 =
直接工事費 × 97% +
共通仮設費 × 90% +
現場管理費 × 90% +
一般管理費 × 68%
※自治体によって係数は異なります。
直接工事費や共通仮設費をほぼ100%反映しているのに対し、利益や本社費用である一般管理費は低めに設定され、過度なダンピングを防止しています。
労務費(人件費)・材料費・安全経費が含まれる理由
最低制限価格には、以下の重要な経費が含まれます。
- 材料費(資材・設備費用)
- 労務費(技能者や技術者の賃金)
- 安全管理費・現場管理費
- 一般管理費(会社の利益・運営費)
特に最近では、賃上げ・技能者の確保・適正な工期確保が重視されているため、人件費の比率が高く設定される傾向にあります。
発注者(自治体・国交省)が算出する仕組み
最低制限価格は、入札参加者が決めるのではなく、発注者(国土交通省・地方自治体)が案件ごとに独自算出します。
計算式は公表される場合もあれば、非公表のケースもあります。
最近では、変動型最低制限価格制度と呼ばれる、応札後に算出される方式も増えています。
最低制限価格制度のメリット・導入目的

品質の低下や安全軽視の防止
最低制限価格制度の最大の目的は、“安かろう悪かろう”の工事を防ぎ、品質と安全性を守ることです。
極端に安い入札が通ってしまうと、工事費を削るために、資材の品質低下・安全設備の省略・作業時間の短縮などが発生し、重大事故や施工不良のリスクが高まります。
特に公共工事では、人命や社会インフラに直結するため、品質や安全対策は絶対に妥協できない要素です。
最低制限価格によって、一定の品質基準を維持した施工を可能にし、将来的な維持管理コストの抑制にもつながります。
最低制限価格制度が守るもの
- 安全対策・施工品質
- 適正な材料選定
- 事故・クレームリスクの削減
- 長期的なインフラの耐久性
つまり、最低制限価格制度は、“今の工事を守る”だけでなく、“未来の安全も守る仕組み”だと言えます。
過度な値引き競争による“赤字受注”の回避
価格競争が行き過ぎると、企業は赤字覚悟で入札を行い、“とにかく受注すること”が目的になってしまいます。
しかしその結果、労務費削減・工程短縮・過酷な働き方・下請けへの圧迫といった悪循環が発生し、業界全体の健全性が失われます。
最低制限価格制度を導入することで、
「適正価格で競争する」→「品質を維持した工事が可能」→「企業の利益と現場の労働環境が守られる」
そんな持続可能な競争環境が実現できます。
最低制限価格制度によって防げる悪影響
- 赤字受注による倒産リスク
- 現場管理費や安全費の削減
- 下請け・技能者へのしわ寄せ
- 若手離職・企業体力の低下
適正な価格が守られることで、「無理なく工事ができる環境」が整い、結果として現場の働き方改革にもつながります。
技能者の賃金確保・技術継承の維持につながる
最低制限価格制度は、“人材を守る制度”でもあります。
安すぎる工事では、人件費が削られ、技能者の賃金が確保できなくなります。すると若手が育たず、ベテランも離職し、業界全体で技術継承が進まなくなります。
建設業界では、
・技能者の高齢化(55歳以上が約35%)
・若手の定着率の低さ
・2024年問題による労働時間の規制
などの課題があるため、適正な賃金と働く環境を守ることが非常に重要です。
最低制限価格制度によって、人件費・技術料・資格者の配置コストが適切に反映されるため、技能者の処遇改善や人材確保につながります。
制度が支えるもの
- 技能者の賃金・資格手当
- 若手育成・技術継承
- 施工管理技士・登録基幹技能者の評価
- 働き方改革(安全・品質・休息の確保)
つまり最低制限価格制度は、
“コストの防波堤”であると同時に、“人材・技能のブレーキ役”
という、業界の未来を支える重要な役割を担っています。
最低制限価格制度の問題点・批判もある?

価格だけで決まるため、技術評価がされにくい
最低制限価格制度は価格を基準にするため、本来評価されるべき技術力・施工体制・人材力が反映されないという課題があります。
実態として“ギリギリの安値受注”は続いている
最低制限価格を上回る範囲の“ギリギリライン”での入札が多く、結果的に十分な利益が確保できず、現場が疲弊するケースも多いのが現状です。
優良企業・技術者が報われにくい構造
利益を確保し、品質重視で工事を行う企業が価格競争に負けて選ばれにくいという声もあります。
この課題を解決するために、総合評価方式や担い手確保型入札制度が登場しました。
総合評価方式・担い手確保型入札との違い

価格競争のみの入札から、“技術・人材も評価する”仕組みに変化
従来の最低制限価格制度では、「価格の安さ」が落札を左右する最も大きな要素でした。
しかし現在は、施工品質・人材確保・技術力・社会的責任(BCP、環境対策、働き方)まで含めて総合的に評価する「総合評価方式」が主流へと移行しています。
総合評価方式では、以下の項目が評価対象になります。
総合評価方式で評価される主な項目
- 技術力(構造・施工方法・品質管理体制)
- 経営状況(財務の安定性・継続性)
- 安全管理・労務管理(働き方改革、週休2日、時間外労働の削減)
- 社会貢献性(若手育成、女性活躍推進、環境配慮)
- 保有資格者の数(施工管理技士、登録基幹技能者、主任技術者など)
このように、「安さ」ではなく、「価値」で選ばれる入札制度へと変化が進んでいます。
つまりこれからの入札では、技術力と人材力を持つ企業が正当に評価される時代です。
人材配置・資格保有者数が評価対象になる理由
今の入札制度では、施工管理技士・登録基幹技能者・主任技術者などの国家資格保有者がどれだけ在籍しているかが“競争力”そのものになります。
その背景には、以下のような業界課題があります。
建設業界の人材課題
- 若手人材の定着率の低さ(3年以内離職率:30%以上)
- 技能者の高齢化(55歳以上が約34%)
- 2024年問題による時間外労働の制限
- 現場の安全確保や法令遵守の重要性
これらの課題を踏まえ、国交省は「安くても人材を守れない企業は落札できない」制度へと移行しています。
つまり、人材を抱えているだけでなく、「適正に確保・育成・雇用できているか」まで問われる時代です。
資格保有者が評価されるのは、“現場の戦力”であり、“企業の信頼性の証明”だから。
施工管理技士・登録基幹技能者が入札評価で求められる背景
施工管理技士や登録基幹技能者は、単なる現場の管理者ではなく、プロジェクト全体をマネジメントできる「価値ある人材」として評価されています。
特に近年は、以下の理由から資格保有者が入札の重要評価項目となっています。
資格者が求められる理由
| 理由 | 解説 |
|---|---|
| 2024年問題 | 労働時間規制により、管理能力のある人材が必須に |
| 働き方改革 | 週休2日・残業削減・安全配慮が求められる |
| 担い手不足 | 若手育成、技術継承の重要性が増加 |
| DX対応 | BIM、ICT施工など新技術に対応できる人材が必要 |
| 総合評価方式 | 技術力・人材力で企業価値を評価する制度 |
特に入札では、資格保有者の数だけでなく、
「どの現場に配置されるか」「常勤か非常勤か」「育成体制があるか」まで評価対象になります。
施工管理技士の資格は、“現場の武器”から、“入札の武器”になる時代へ。
企業が資格保有者を大切にし、待遇を改善する理由も、ここにあります。
最低制限価格制度は施工管理の働き方にどう影響する?

過剰なコスト削減による残業増加・人手不足の悪循環
安値受注が続くと、以下のような現場の負担が増えていきます。
- 人員削減・過重労働
- 施工管理の長時間労働・休日消滅
- 若手離職・技能者不足
- 品質・安全リスクの増加
これは最低制限価格制度だけの問題ではありませんが、価格主義の入札が現場の働き方に直結している現実があります。
今後求められる“価格より品質・人材評価”の働き方
国交省は今後、価格だけでなく、技術力・品質・人材確保を重視する入札方式を拡大する方針を示しています。
施工管理の働き方も、“管理者”から“価値の創造者”へと変化するでしょう。
施工管理技士の資格は入札で“武器になる”
技術者資格は、会社にとっての入札評価ポイントになるため、企業は資格保有者の確保に力を入れています。
結果として、施工管理技士は評価され、給与・待遇の改善にもつながる時代に進んでいます。
今後どう変わる?制度改正と建設業界の未来

国交省による担い手確保型入札の拡大方針
国交省は2023年以降、若手確保・処遇改善を目的とした「担い手確保型入札」の導入拡大を打ち出しています。
最低制限価格制度も、“価格より人材・品質重視”へと進化しています。
2024年問題で価格より“安全・労務確保”が重要に
建設業でも、働き方改革法による時間外労働の上限規制(2024年問題)が適用されます。
これにより、安値受注では現場が回らない時代に突入しています。
DX・BIMによるコスト算定・入札の変化
DXやBIMを活用したコスト算定・積算システムが導入され、価格の透明性と適正性が求められる時代へ移行。
今後は、“安さ”ではなく“賢さ”と“技術力”の競争になっていきます。
よくある質問(FAQ)
最低制限価格を下回るとどうなる?
→ 自動失格となり、入札資格を失います。
低入札価格調査制度とは異なり、審査もされません。
最低制限価格と予定価格の違いは?
| 項目 | 意味 | 公表 |
|---|---|---|
| 予定価格 | 入札の上限額 | 非公表が多い |
| 最低制限価格 | 入札の下限額 | 非公表が多い |
資格者が多い企業は入札で有利?
→ 総合評価方式・担い手確保型入札では非常に有利です。
施工管理技士・登録基幹技能者の保有数が評価に影響します。
民間工事にも最低制限価格はある?
→ 原則は公共工事の制度ですが、民間企業も内部基準で導入するケースが増えています。
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- 入札制度(総合評価方式・担い手確保型・DX入札)のリアル解説
- 資格と年収の関係(1級施工管理技士・登録基幹技能者・技術士など)
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まとめ|最低制限価格制度は、施工管理の待遇と現場の未来を左右する重要制度
最低制限価格制度は、単に「安すぎる入札を規制する仕組み」ではありません。
品質・安全・人材・技術継承を守るための、建設業界の未来を支える制度です。
今後は、
“価格勝負の入札” → “品質・人材・価値で選ばれる入札”の時代へ
そしてその鍵を握っているのが、施工管理技士・登録基幹技能者といった「人材そのもの」です。
