道路を掘らずに水道管を直す?老朽インフラで注目される「管更生工法」
水道管を新しくすると聞くと、どのような工事を想像するでしょうか。
- 道路を規制する。
- アスファルトを切る。
- 重機で道路を掘削する。
- 古い水道管を撤去する。
- 新しい管を埋設する。
- そして最後に道路を復旧する。
水道管の更新では、こうした「開削工事」が一般的です。
しかし、
- 鉄道の下。
- 交通量の多い幹線道路。
- 河川の横断部。
- 建物が密集した市街地。
こうした場所では、道路を大きく掘り返して水道管を交換することが簡単ではありません。
そこで国が本格的に活用を検討し始めているのが、
「管更生工法」
です。
国土交通省は2026年8月25日、「開削困難箇所における水道管路の更生工法の要求性能に関する検討会」の第1回会合を開催しました。
管更生工法とは、既存の水道管を撤去するのではなく、既設管の内部に樹脂などの高強度な材料を入れ、新しい管を形成することで管路を再生する技術です。
国土交通省は、
「道路を大きく掘り返すことなく、既設管の内部に新しい管を形成する」
工法として紹介しています。
水道管の老朽化が急速に進む一方、更新工事に使える人員や予算には限りがあります。
これからの水道インフラ更新では、
「全部掘って交換する」だけではなく、「既存の管をどう再生して使うか」
という選択肢が重要になりそうです。
今回は、いま注目されている水道管の「管更生工法」について、施工管理の視点から見ていきます。
日本の水道管の4本に1本が「40年超」

なぜ今、管更生工法が注目されているのでしょうか。
背景にあるのが、水道管の急速な老朽化です。
国土交通省によると、2023年度時点の全国の水道管路延長は約74万6,000km。
そのうち、法定耐用年数である40年を超えた管路は約18万9,000kmに達しています。
管路経年化率は、
25.3%
です。
単純に考えれば、全国の水道管のおよそ4本に1本が40年を超えていることになります。
一方で、同年度に更新された水道管は約4,547km。
管路更新率は、
0.61%
にとどまっています。
さらに国交省の試算では、現在40年を超えている水道管を今後20年間で更新するだけでも、年間約9,450km、更新率約1.27%が必要です。
現在の更新ペースの約2倍です。
つまり、
古くなるスピードに、更新が追いついていない。
これが現在の水道インフラが抱える大きな問題です。
そもそも「管更生工法」とは?
一般的な水道管の更新では、地面を掘削して既存管を撤去し、新しい管を埋設します。
一方、管更生工法では基本的に既存の管をそのまま利用します。
イメージとしては、
古い水道管の中に、もう一本新しい管をつくる
ような工法です。
国交省は、水道管の更生工法について、
既設管の内部に樹脂などの高強度な素材を挿入し、新しい管を形成することで、
- 管路の長寿命化
- 機能の向上
を図る技術としています。
道路全体を長い距離にわたって掘削するのではなく、必要な場所から既設管の内部へ更生材料を施工します。
そのため記事タイトルでは「道路を掘らずに」としていますが、厳密には、
「道路をまったく掘らない」のではなく、「道路を大きく掘り返さずに施工できる」
という理解が適切です。
工法によっては施工のための立坑や作業スペースなどが必要になります。
なぜ「掘らない」ことが重要なのか

道路を掘らない最大のメリットは、単純に工事が楽になることではありません。
特に重要なのが、
「そもそも掘ることが難しい場所でも更新できる可能性がある」
ことです。
鉄道の下
鉄道の下に水道管が通っている場合、通常の道路工事のように簡単に掘削することはできません。
列車運行への影響や安全管理などを考える必要があります。
交通量の多い道路
都市部の幹線道路を長期間規制すれば、大規模な交通渋滞につながる可能性があります。
物流やバスなどへの影響も無視できません。
河川横断部
水道管が川の下を横断している場所もあります。
こうした場所を開削して管を交換するには、大規模な仮設工事が必要になる場合があります。
市街地
地下には水道だけではなく、
- 下水道
- ガス
- 電気
- 通信
など多くのインフラが存在しています。
地下埋設物が多い場所ほど、掘削工事の難易度は高くなります。
国交省も、鉄道下や河川横断などを「施工困難箇所」として挙げ、管更生工法などによる効率的な更新技術の検討を進めています。
道路規制を小さくできる可能性もある
管更生工法のメリットは、地下だけではありません。
開削工事が小さくなれば、地上への影響も小さくできる可能性があります。
通常の管路更新では、
- 掘削。
- 土砂搬出。
- 既設管撤去。
- 新管設置。
- 埋戻し。
- 舗装復旧。
と、多くの工程が発生します。
道路上には重機やダンプが入り、交通規制も必要になります。
一方、管更生工法では既設管を利用するため、条件が合えば大規模な掘削を減らすことができます。
その結果、
- 交通規制範囲の縮小
- 騒音・振動の軽減
- 掘削土量の削減
- 工事車両の削減
- 道路復旧範囲の縮小
などにつながる可能性があります。
人口密度の高い都市部では、工事そのものだけでなく、
「周辺への影響をどれだけ小さく施工できるか」
も重要です。
なぜ今まで水道管で広く使われてこなかった?
ここで疑問が出てきます。
これだけメリットがあるのであれば、
「もっと早くから水道管に使えばよかったのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、水道管には水道管特有の難しさがあります。
水道管の中には「圧力」がかかっている
下水道管の多くは、勾配を利用して水を流す自然流下方式です。
一方、水道管は水を各家庭や施設まで送り届けるため、内部に圧力がかかっています。
そのため更生した管についても、
継続的な水圧に耐えられる性能
が必要です。
既設管があるから大丈夫なのではなく、
老朽化した既設管が将来さらに劣化することも考えなければなりません。
新しく形成した管が、
「どこまで単独で構造性能を持つのか」
も重要な考え方になります。
毎日飲む水だから「水質」も重要
水道管を流れるのは飲料水です。
そのため内部に使われる材料は、単に強ければよいわけではありません。
長期間水と接触しても、
安全性に問題がないか。
水質へ影響しないか。
臭いや味などへ影響しないか。
といったことも重要になります。
地震への対応も考えなければならない
日本の水道管では耐震化も重要なテーマです。
単に古い管の内側を補強するだけでなく、
地震による変形や継手の動きなどに対してどのような性能を持たせるのか。
こうした点も技術的な課題になります。
つまり水道管の更生工法は、
「樹脂を入れて固めれば完成」
という単純な話ではありません。
だからこそ国は今、管更生工法について統一的に求める性能を整理しようとしているのです。
国が2026年8月から「要求性能」を本格検討
国土交通省は2026年8月25日、第1回となる
「開削困難箇所における水道管路の更生工法の要求性能に関する検討会」
を開催しました。
検討会では、
- これまで実施した水道管更生技術の研究
- 更生工法に求める性能
- 要求性能案
などについて議論しています。
実は国は今回突然、管更生工法に注目したわけではありません。
2024年度には「水道革新的技術実証事業(A-JUMPプロジェクト)」として、
「水道管更生技術の要求性能項目の基準化」
という調査研究を採択しています。
つまり、
技術を実証する
↓
必要な性能を整理する
↓
実際の水道更新で使える仕組みをつくる
という段階へ進んでいるわけです。
国土強靱化でも水道管更新が重点テーマに
背景には、老朽化だけではなく「国土強靱化」があります。
国の国土強靱化施策では、
事故が起きたときに社会的影響が大きい水道管路の更新
を進める方針が示されています。
例えば、
- 大口径管
- 緊急輸送道路下
- 重要物流道路下
- 更新や修繕が難しい管路
などです。
こうした管路が破損すれば、大規模な断水だけでなく、道路や周辺施設にも影響する可能性があります。
そのため「壊れてから直す」のではなく、
社会的影響が大きい場所から計画的に更新する
ことが求められています。
しかし、その重要な管路ほど交通量の多い場所などにあり、簡単には掘れない。
そこで管更生工法が選択肢になるのです。
海外でも「非開削管更生」を実証へ
管更生工法を巡る動きは国内だけではありません。
国土交通省は2026年8月27日、日本の上下水道技術を海外で実証する「WOW TO JAPANプロジェクト」として、マレーシアで非開削管更生技術を実証すると発表しました。
実証ではCIPP(現場硬化管)技術を使い、クアラルンプールなどの都市部で、大規模な開削をせずに既設管内部へ新しい管を形成します。
対象には約1,000mmの大口径管も予定されています。
日本国内でも海外でも、
「道路を掘り返して管を交換する」以外の更新方法
への関心が高まっていることが分かります。
管更生工法なら何でも直せるわけではない
ただし、管更生工法は万能ではありません。
ここは施工管理者として重要なポイントです。
既設管の状態によっては、更生より交換した方が適切なケースもあります。
例えば、
管そのものが大きく変形している。
断面が著しく損傷している。
継手が大きくずれている。
ルートそのものを変更する必要がある。
既設管径を大きくしたい。
といった場合です。
また管の内側に新しい層を形成する以上、内径が小さくなる可能性もあります。
その場合、
必要な水量を流せるのか
という水理性能も確認しなければなりません。
つまり、
「古いから全部更生する」
のではなく、
管の状態、施工条件、必要な性能を確認したうえで、開削更新と更生工法を使い分ける
ことが重要です。
施工管理者の仕事はどう変わる?
管更生工法が普及すれば、現場管理のポイントも従来の開削工事とは変わります。
1. 掘削管理より「既設管調査」が重要になる
更生工事では既存の管を利用します。
そのため施工前に、
- 管内の状態
- 腐食
- 変形
- 継手
- 付着物
- 既設管径
などを確認することが重要になります。
施工してから、
「想定していた管の状態と違う」
となれば、工法そのものを見直さなければならない可能性があります。
2. 管内部の施工品質を管理する
通常の新設管であれば、施工中に管そのものを見ることができます。
しかし更生工法では、地下にある既設管の内部で新しい管を形成します。
そのため、
施工前。
施工中。
施工後。
それぞれでどのように品質を確認するかが重要です。
施工管理も、
「地上から見える工事を管理する」から「管内で形成された性能を確認する」
という側面が強くなります。
3. 断水時間の管理も重要
水道管の工事では、施工中の水をどうするかも重要です。
既設管を使用している間は通常の給水ルートとして使えない場合があります。
そのため、
どの時間帯で施工するのか。
断水は必要なのか。
仮設管を設置するのか。
どこまで利用者へ影響するのか。
といった工程管理も必要になります。
「道路を掘らない=簡単な工事」とは限りません。
地下の施工を減らす代わりに、
より綿密な事前調査と工程計画が求められる工法
ともいえます。
「全部交換する」から「使えるものを再生する」時代へ
これまでインフラ更新というと、
古くなったものを撤去する。
新しいものへ交換する。
という考え方が基本でした。
しかし全国には約74万kmを超える水道管があります。
そのうち25%以上がすでに40年を超えています。
人手不足。
建設費上昇。
交通規制。
地域住民への影響。
限られた自治体予算。
こうした状況を考えると、
すべての管を同じ方法で掘り返して交換するだけでは、更新が追いつかない可能性があります。
だからこそ、
交換すべき管は交換する。
使える既設管は再生する。
という考え方が重要になります。
まとめ|水道工事は「掘る」が当たり前ではなくなる?
水道管の老朽化はこれからさらに進みます。
2023年度時点ですでに全国の水道管の25.3%が法定耐用年数40年を超えています。
一方、年間更新率は0.61%です。
この更新ギャップを埋めるためには、
人を増やす。
予算を増やす。
だけではなく、
「どうやって更新するか」そのものを変える必要があります。
その一つが管更生工法です。
道路を大規模に掘削することなく、既設管の内部に新しい管を形成する。
- 鉄道下。
- 河川横断。
- 交通量の多い道路。
- 市街地。
従来の開削工事が難しい場所でも、水道管を更新できる可能性があります。
もちろん、どんな管にも使える万能な工法ではありません。
- 既設管の状態。
- 耐圧性能。
- 耐久性。
- 水質。
- 水理性能。
- 施工品質。
さまざまな条件を満たす必要があります。
だからこそ2026年8月、国は水道管更生工法の「要求性能」を整理するための新たな検討を始めました。
これからの水道工事では、
「どのように掘るか」だけでなく、「そもそも掘らずに施工できないか」
を考える機会が増えていくかもしれません。
施工管理者にとっても、開削工事だけでなく、既設インフラを生かしながら再生する技術を理解することが、これまで以上に重要になっていきそうです。
参考資料
国土交通省「水道管更生工法の活用に向けた技術的課題について議論します」
国土交通省「令和8年度全国水道主管課長会議」
国土交通省「令和6年度 水道革新的技術実証事業(A-JUMPプロジェクト)」
国土交通省「上下水道技術海外実証事業(WOW TO JAPANプロジェクト)の採択技術を決定しました」
