道路パトロールは人が目で見る仕事ではなくなる?
道路を安全な状態に保つためには、日常的なパトロールが欠かせません。
- 道路に穴が開いていないか。
- 白線が消えかけていないか。
- 道路標識が樹木などで見えにくくなっていないか。
- 車両の通行を妨げるものがないか。
これまで道路巡視では、こうした異常を巡回車両に乗った担当者が目で確認してきました。
しかし、この道路パトロールのあり方が大きく変わろうとしています。
国土交通省は2026年7月30日、「舗装点検、道路巡視の支援技術」の公募を開始しました。
対象となっているのは、
- ポットホール
- 区画線の摩耗
- 建築限界の超過
- 標識隠れ
などを把握するAI・ICT技術です。
つまり、これまで人が道路を走りながら目で探していた異常を、カメラやセンサー、AIによって自動的に見つけようという取り組みです。
しかも、これは単なる実証実験ではありません。
直轄国道ではすでに一部の道路巡視で点検支援技術の活用が原則化されています。
道路パトロールは今、
「人が異常を探す仕事」から、「AIが拾った異常を人が判断する仕事」
へ変わり始めているのです。
そもそも道路パトロールでは何を見ている?

道路巡視というと、
「道路を車で走って異常がないか確認する仕事」
というイメージを持つ人も多いでしょう。
実際には、道路上には確認しなければならないものが数多くあります。
例えば、
- 路面の穴
- ひび割れ
- わだち
- 落下物
- 白線の摩耗
- ガードレールの破損
- 標識の異常
- 樹木による視界不良
- 道路上への障害物の突出
などです。
道路は24時間、車両や歩行者に利用されています。
昨日問題がなかった場所でも、今日突然ポットホールが発生することがあります。
特に大雨や積雪、凍結などの後には、路面状況が短期間で変化する場合があります。
そのため道路管理では、
異常をできるだけ早く見つけること
が非常に重要です。
AIが見つける「ポットホール」とは?

今回、国が支援技術を募集している項目の一つが、
ポットホール
です。
ポットホールとは、舗装が部分的に剥がれ、道路表面に穴ができた状態を指します。
小さな穴であれば問題がなさそうに見えるかもしれません。
しかし高速で走行している車両が踏めば、
- タイヤのパンク
- ホイールの損傷
- ハンドル操作の乱れ
- 二輪車の転倒
などにつながる可能性があります。
さらに一度穴ができると、雨水が舗装内部へ入り込み、車両荷重によって損傷が急速に拡大することがあります。
そのため道路管理では、
小さいうちに発見して補修すること
が重要です。
これまでは巡視員が目視で発見することが基本でした。
しかしAIによる画像解析を使えば、道路を撮影した映像からポットホールらしき箇所を自動抽出することができます。
国交省の点検支援技術性能カタログには、すでにポットホールなどを検出する道路巡視技術が複数掲載されています。
「白線が薄い」もAIが判定する
もう一つ対象となっているのが、
区画線の摩耗
です。
道路のセンターライン。
車線境界線。
外側線。
横断歩道。
こうした白線は、車両が安全に走行するための重要な情報です。
しかし道路を走る車両のタイヤや紫外線、雨などの影響によって少しずつ薄くなっていきます。
問題は、
「どこまで薄くなったら引き直すのか」
という判断です。
人による目視では、担当者によって
「まだ大丈夫」
「そろそろ塗り直した方がいい」
という判断に差が出る可能性があります。
AIや画像解析を使えば、撮影した道路画像から区画線の状態を解析し、摩耗状況を定量的に把握することができます。
実際、直轄国道の維持工事では、
「ポットホールの特定」と「区画線の摩耗の判定」
について、点検支援技術の活用が原則化されています。
標識が「見えない」ことも自動で探す
AI道路巡視が確認するのは、路面だけではありません。
今回の技術公募には、
「標識隠れ」
も含まれています。
例えば道路標識が設置されていても、
街路樹の枝。
雑草。
電柱。
広告物。
などによって見えにくくなっていることがあります。
標識そのものに異常がなくても、運転者から見えなければ本来の役割を果たせません。
これまでは巡視員が、
「この標識、少し木に隠れているな」
と気づいて対応していました。
しかしカメラ画像とAIを組み合わせれば、
標識の位置を認識し、
「本来見えるはずの標識が隠れている」
という異常候補を抽出することも可能になります。
「建築限界の超過」までAIが見る
道路巡視の対象には、
建築限界の超過
もあります。
建築限界とは簡単に言えば、
車両や歩行者が安全に通行するため、道路上に構造物などが入ってはいけない空間
のことです。
例えば、
木の枝が道路上へ大きく張り出している。
看板が道路側へ飛び出している。
道路上空の設備が低すぎる。
こうした状態では、大型車などが接触する可能性があります。
従来は巡視員が現地を確認し、
「この枝は危ない」
「これは車両と接触する可能性がある」
と判断していました。
今後はカメラや3次元計測技術などを活用し、道路空間そのものをデータとして確認する方向へ進んでいます。
すでに道路巡視のAI化は始まっている
今回のニュースだけを見ると、
「これからAI道路パトロールの研究が始まる」
ようにも感じます。
しかし実際には、もう少し先まで進んでいます。
国土交通省では以前から、
「点検支援技術性能カタログ」
を整備しています。
これは道路や橋梁、トンネルなどの点検に使える新技術について、
- どのような技術なのか
- 何を測定できるのか
- どの程度の精度なのか
- どのくらい時間がかかるのか
などを整理したものです。
2026年4月には新たに54技術が追加され、道路巡視分野だけでも、
32技術
が掲載されています。
対象は、
- ポットホール
- 区画線の摩耗
- 建築限界
- 標識隠れ
などです。
つまりAI道路巡視は、
「将来できたらいい技術」
ではなく、
すでに実際の道路管理で選択できる技術
になっています。
なぜ道路巡視をAI化するのか?
では、なぜ国はこれほど道路巡視へのAI導入を進めているのでしょうか。
最大の理由の一つが、
道路管理を効率化する必要があるからです。
道路管理者が管理しなければならない道路は膨大です。
そのすべてを人が何度も巡回し、
すべての異常を見逃さず、
記録し、
必要な補修へつなげる。
これは簡単な仕事ではありません。
さらに建設・維持管理分野では人手不足も続いています。
今後、
「巡視する道路は減らない」
一方で、
「巡視を担当する人を増やすことも簡単ではない」
という状況が進めば、人だけに依存した道路管理には限界があります。
だからこそ、
人がやらなくてもよい確認を機械へ任せる
という考え方が重要になります。
AIなら同じ道路を何度でも比較できる
AI道路巡視のメリットは、省人化だけではありません。
特に大きいのが、
過去の状態と比較しやすいこと
です。
例えば同じ道路を毎月撮影したとします。
先月。
今月。
来月。
それぞれの画像データが残っていれば、
「このポットホールは1カ月でどれだけ大きくなったか」
「この白線はどのくらい摩耗したか」
といった変化を比較できます。
人間の記憶では、
「前より少し悪くなった気がする」
程度になってしまうことがあります。
しかしデータとして残せば、変化を客観的に確認できます。
道路管理が、
「その瞬間を見る仕事」から「変化を追い続ける仕事」
へ変わるということです。
では道路パトロールの人はいらなくなる?
AI道路巡視という言葉を聞くと、
「いずれ道路パトロールの仕事がなくなるのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、現時点ではそう単純ではありません。
国交省も、AIを
「点検支援技術」
として位置付けています。
つまり、人を完全に置き換える技術ではなく、
人の判断を支援する技術
という位置付けです。
AIが、
「ここにポットホールがあります」
と検出したとしても、
実際にどの程度危険なのか。
すぐ補修が必要なのか。
交通規制が必要なのか。
応急補修でよいのか。
全面的な舗装補修が必要なのか。
こうした判断は現場状況によって異なります。
最終的には、人による確認や判断が必要になる場面が多く残ります。
AIも間違える可能性がある
もう一つ忘れてはいけないのが、
AIの検出結果が100%正しいわけではない
ということです。
国交省の道路巡視用点検支援技術性能カタログでも、技術ごとに検出率や的中率などが整理されています。
例えば、
影。
落ち葉。
水たまり。
路面補修跡。
こうしたものをAIが異常として判定してしまう可能性があります。
逆に、道路の状態や撮影条件によっては、本当の異常を見落とす可能性もあります。
そのため重要なのは、
「AIが見つけたから正しい」
と考えることではありません。
AIが異常候補を抽出し、
人が確認し、
必要な措置を判断する。
この組み合わせが現実的です。
施工管理・維持管理の仕事はどう変わる?
道路巡視のAI化が進めば、施工管理や維持管理の仕事にも変化が出てきます。
1. 「異常を探す」時間が減る
従来は巡視員が道路を走りながら、すべての箇所を確認する必要がありました。
AIが異常候補を抽出できれば、人は特に確認が必要な場所へ集中できます。
つまり、
探す仕事から、判断する仕事へ
人の役割を移すことができます。
2. 補修の優先順位を決めやすくなる
道路の異常が複数見つかった場合、
どこから補修するか。
という判断も必要です。
AIやデータによって、
穴の大きさ。
白線の摩耗度。
過去からの変化。
交通量。
などを整理できれば、補修の優先順位も決めやすくなります。
3. 発注者との情報共有が変わる
これまで、
「○○地点で舗装が傷んでいます」
と写真や報告書で伝えていたものが、
地図上に異常位置を表示する。
過去画像と比較する。
劣化度を数値化する。
といった形に変わる可能性があります。
施工管理者にも、
現場を見る力だけでなく、データを読む力
が必要になっていくでしょう。
「人の経験」がなくなるわけではない
AIが普及すると、
「ベテランの経験は必要なくなる」
と考えられることがあります。
しかし実際には逆かもしれません。
AIが、
「ここに異常があります」
と教えてくれたとしても、
その原因が何なのか。
どの程度危険なのか。
どう補修すればよいのか。
を考えるには、道路構造や施工に関する知識が必要です。
例えば同じひび割れでも、
単なる表面的なひび割れなのか。
舗装内部まで損傷しているのか。
路盤や路床に原因があるのか。
によって補修方法は変わります。
AIが異常を見つけるようになれば、
人間にはむしろ、
「その異常をどう判断するか」
という専門性がより求められる可能性があります。
全国の自治体にも広がる可能性
現在、点検支援技術の活用原則化が進んでいるのは主に直轄国道です。
しかし国交省は、こうした取り組みを地方公共団体など他の道路管理者にも広げ、新技術活用を促進することを目的としています。
全国には、
国道。
都道府県道。
市町村道。
があります。
特に地方自治体では、限られた人員で大量の道路を管理しているケースも少なくありません。
そのためAI道路巡視は、
人手不足が深刻な自治体ほどメリットが大きい技術
になる可能性があります。
道路管理は「巡回」から「常時監視」に近づく?
さらに先を考えると、道路管理そのものの考え方が変わる可能性もあります。
現在は、
巡回する。
異常を見つける。
補修する。
という流れが基本です。
しかし将来的には、
巡回車両。
バス。
タクシー。
物流車両。
一般車両。
などに搭載されたカメラデータを活用し、道路状態を継続的に把握する仕組みも考えられます。
毎日大量の車両が同じ道路を走っています。
その映像を道路管理に利用できれば、
「パトロールに行ったときだけ道路を見る」
のではなく、
「道路の状態を常にデータで把握する」
という管理方法へ近づいていきます。
まとめ|道路パトロールは「見る仕事」から「判断する仕事」へ
国土交通省は2026年7月、
ポットホール。
区画線の摩耗。
建築限界の超過。
標識隠れ。
などを自動的に把握する道路巡視支援技術の公募を開始しました。
しかし道路巡視のデジタル化は、これから始まる話ではありません。
2026年4月時点で道路巡視分野の点検支援技術は32技術まで増えており、直轄国道ではすでにポットホールの特定や区画線摩耗の判定などで技術活用が原則化されています。
だからといって、道路パトロールから人が完全にいなくなるわけではありません。
AIが得意なのは、
大量の画像を見ること。
異常候補を探すこと。
過去と比較すること。
データを整理すること。
です。
一方、人が担うのは、
本当に危険なのか判断する。
補修方法を決める。
交通への影響を考える。
現場で安全に施工する。
といった仕事です。
つまりこれからの道路巡視では、
AIが「見つける」。
人が「判断する」。
という役割分担が進んでいくと考えられます。
道路パトロールは、人が道路を見ながら走るだけの仕事から、
AIが集めた道路データを使って、異常の原因や補修の優先順位を判断する仕事
へ。
施工管理や維持管理の現場でも、「目で見る力」に加えて「データを使う力」が必要になる時代が、すでに始まっています。
参考資料
国土交通省「『舗装点検、道路巡視の支援技術』を公募します~点検支援技術性能カタログの充実を図り、新技術の活用を促進~」
国土交通省「点検支援技術性能カタログを拡充~橋梁・トンネル・土工・舗装・道路巡視の点検支援技術を追加~」
国土交通省「直轄点検における点検支援技術活用原則化の取組」
国土交通省「点検支援技術性能カタログ【道路巡視編】」