トンネル工事は人が入らない時代へ?ロックボルト工の機械化で変わる施工管理

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山岳トンネル工事では、これまで人の経験と技能に頼る作業が多く残ってきました。
特に、掘削直後の切羽付近では、地山の肌落ちや落石などの危険があり、作業員の安全確保が重要な課題です。

その中で注目されているのが、危険な場所に人を入れず、機械やICTを活用して施工する流れです。

2026年5月、東急建設は山岳トンネル工事のロックボルト工を対象に、省人化・省力化技術パッケージの実証を行い、作業編成人員を約40%削減したと発表しました。国土交通省近畿地方整備局発注の「有田海南道路1号トンネル工事」で実施されたもので、切羽内への立ち入りを不要にする運用を確立し、安全性の向上も確認されています。

これは、単なる新技術のニュースではありません。
トンネル施工管理の考え方が、
「危険な場所で人が頑張る」から「危険な場所に人を入れない段取りをつくる」へ変わっていることを示しています。

この記事では、ロックボルト工の機械化をきっかけに、山岳トンネル工事の施工管理がどのように変わるのかを解説します。

ロックボルト工とは?トンネルを支える重要な作業

ロックボルト工とは、山岳トンネル工事で掘削した地山を安定させるために行う支保作業のひとつです。
掘削後の地山に孔をあけ、ロックボルトと呼ばれる棒状の支保材を挿入し、モルタルなどで定着させることで、地山の崩落や変形を防ぎます。

山岳トンネルでは、掘削した直後の切羽付近が不安定になることがあります。
そのため、吹付けコンクリート、鋼製支保工、ロックボルトなどを組み合わせながら、地山を支える必要があります。

ロックボルト工は、トンネルの安全性や品質に直結する重要作業です。
一方で、従来は人力に頼る場面も多く、作業員の負担が大きい作業でもありました。

東急建設の発表では、従来のロックボルト工について、穿孔位置のマーキング、長尺・重量物であるロックボルトの高所での挿入、約20kgのモルタル袋の投入など、危険や負担を伴う作業が繰り返し発生していたと説明されています。

つまり、ロックボルト工は、トンネルの品質を守る重要作業であると同時に、
作業員の安全・負担・人員確保が課題になりやすい工程でもあります。

だからこそ、ここを機械化・省人化できることには大きな意味があります。

東急建設の実証では何が変わったのか

引用:東急建設

今回の東急建設の実証では、施工機械・材料・ICT機器を組み合わせた「省人化・省力化技術パッケージ」が導入されました。

ポイントは、ロックボルトの挿入、モルタル充填、ナット緊結など、切羽範囲内で行われていた作業を機械化・簡略化したことです。
その結果、標準5名だった作業編成を3名に削減し、作業編成人員を約40%削減できたとされています。

従来の標準編成

  • オペレーター:2名
  • 作業員:2名
  • モルサポ操作員:1名
  • 合計:5名

実証後の編成

  • オペレーター:2名
  • モルタル自動供給システム操作員:1名
  • 合計:3名

さらに重要なのは、人員削減だけではありません。
切羽近傍への作業員の立ち入りを不要にする運用が確立された点です。

トンネル工事では、切羽付近の肌落ちや落石が大きなリスクになります。
その場所に人が入らなくて済むようになれば、安全管理の考え方そのものが変わります。

また、ロックボルト1本あたりの作業時間は国土交通省の土木工事標準積算基準と比較して標準並みで、所定の出来形精度・品質も確保されたとされています。

つまり今回の実証は、人を減らしただけではなく、安全性・生産性・品質を同時に確認した取り組みだと言えます。

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危険作業を人から機械へ移す意味

今回のニュースで最も重要なのは、危険作業を人から機械へ移している点です。

建設業界では、人手不足への対応として省人化が語られることが多くあります。
しかし、トンネル工事における省人化は、単に「人が足りないから減らす」という話ではありません。

本質は、人が入るべきではない危険な場所から、人を遠ざけることです。

特に山岳トンネル工事では、切羽付近での作業にリスクがあります。
鹿島が2026年3月に発表した切羽評価システムでも、従来の切羽観察では社員や技能者が切羽付近で目視確認を行っており、肌落ちによる災害の危険性があると説明されています。

つまり、山岳トンネル工事では、切羽付近の作業そのものを減らすことが安全性向上の大きな方向性になっています。

東急建設は2026年1月にも、トンネル支保工誘導システムと3軸微調整機構付きエレクターを導入し、切羽直下への作業員の立ち入りを排除したと発表しています。こちらも作業人員約40%削減と安全性向上を両立する取り組みです。

この流れを見ると、トンネル工事は今後、
「危険作業をどう管理するか」から「危険作業をどうなくすか」へ
進んでいく可能性があります。

施工管理者にとっても、安全管理の考え方が変わります。
作業員に注意喚起するだけでなく、そもそも危険区域に入らない施工計画を組むことが求められるようになります。

省人化で現場監督の安全管理は楽になるのか

ロックボルト工が機械化され、切羽内への立ち入りが不要になると、現場監督の安全管理は楽になるのでしょうか。

結論から言えば、危険作業そのものは減りますが、施工管理者の責任がなくなるわけではありません
むしろ、管理すべき内容が変わります。

従来は、人の配置、立入禁止措置、作業手順、声かけ、合図、転落・落石リスクへの注意など、人を中心とした安全管理が重要でした。

一方で、機械化が進むと、次のような管理が重要になります。

  • 機械の作業範囲に人が入らないか
  • オペレーターが操作手順を理解しているか
  • 自動供給システムやICT機器が正しく作動しているか
  • 機械トラブル時の退避・停止手順が決まっているか
  • 作業員と機械の干渉リスクがないか
  • 機械化後も品質確認が適切に行われているか

つまり、危険箇所に人が入らなくなることで安全性は高まります。
しかし、現場監督には、機械化された作業全体を安全に成立させる管理が求められます。

また、トンネル工事では狭い空間に大型機械、作業員、資材、支保部材、換気設備などが集中します。
機械化が進むほど、重機同士の干渉、作業半径、避難経路、通信確認なども重要になります。

省人化は安全管理を不要にするものではありません。
安全管理の対象が、人の動きから、人と機械の関係へ広がると考えるべきです。

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機械化しても工程管理は簡単にならない

ロックボルト工の省人化は、工程管理にも影響します。

人員が少なくなり、作業の一部が機械化されれば、工程は単純になるように見えるかもしれません。
しかし実際には、施工管理者が見なければならない項目は増える可能性もあります。

今回の実証では、ロックボルト1本あたりの作業時間は標準並みと確認されています。
さらに、操作習熟後には一方のブームが自動穿孔している間に、もう一方のブームで位置合わせやモルタル注入を並行実施できる見通しも得られたとされています。

これは、生産性向上につながる可能性があります。
ただし、現場で安定して運用するには、段取りが重要です。

たとえば、施工管理者は次のような点を確認する必要があります。

  • 機械の搬入・設置スペース
  • 作業前点検とメンテナンス時間
  • オペレーターの習熟度
  • モルタル材料の供給タイミング
  • 穿孔位置の確認方法
  • 後工程との接続
  • 機械トラブル時の代替工程

機械化された現場では、1つの機械トラブルが工程全体に影響することがあります。
人力作業であれば人数を増やして対応できた場面でも、専用機械が止まれば作業が進まない可能性があります。

そのため、施工管理者には、機械を使う前提で工程を組み、機械が止まった場合のリスクも考える力が必要になります。

機械化は工程管理を不要にするのではなく、工程管理をより計画的にするものです。

品質管理は「人の目」から「データ管理」へ広がる

ロックボルト工の機械化で重要なのは、安全や人員だけではありません。
品質管理にも大きな変化があります。

トンネル工事では、ロックボルトの位置、角度、長さ、定着状態、モルタル充填、引抜試験などが品質に関わります。
機械化によって作業が効率化されても、品質が確保できなければ意味がありません。

今回の実証では、所定の出来形精度・品質が確保され、引抜試験も全数合格したと発表されています。

また、施工管理面では、軽量化・コンパクト化されたICT試験システムによって計測作業人員を標準2名から1名へ削減し、品質管理記録作成時間の短縮も確認されています。今後は穿孔データを用いた出来形調書の自動作成によるさらなる省力化にも取り組む予定です。

これは、施工管理にとって非常に重要な変化です。

これまでの品質管理は、現場で測る、写真を撮る、帳票にまとめる、確認を受けるという流れが中心でした。
今後は、施工機械やICT機器から得られるデータを活用し、出来形や品質記録を自動化・省力化する流れが強まります。

ただし、データが出るからといって、品質管理が自動で完結するわけではありません。

施工管理者には、次の視点が必要です。

  • データが実際の施工状態を正しく表しているか
  • 異常値や欠測がないか
  • 設計値・管理基準と照合できているか
  • 発注者に説明できる記録になっているか
  • データと写真・試験結果が整合しているか

品質管理は、人の目だけに頼る管理から、データを読み解く管理へ広がっていると言えます。

トンネル施工管理の専門性はさらに高くなる

山岳トンネル工事の施工管理は、もともと専門性が高い仕事です。

地山の状態、支保パターン、掘削方法、吹付けコンクリート、ロックボルト、鋼製支保工、換気、排水、安全管理など、一般的な建築工事とは違う知識が求められます。

そこに機械化・ICT化が加わることで、現場監督に求められる専門性はさらに広がります。

これからのトンネル施工管理者には、次のような力が必要になります。

  • 地山や切羽のリスクを理解する力
  • 支保工やロックボルトの施工手順を理解する力
  • 機械化された施工システムを使いこなす力
  • ICT機器や施工データを読み取る力
  • 機械トラブル時に工程を組み替える力
  • 作業員が危険区域へ入らない仕組みをつくる力
  • 品質管理データを発注者へ説明する力

特に重要なのは、機械化された現場でも、最終的な判断は施工管理者に残るということです。

機械は正確な作業を支援できます。
ICTはデータを集められます。
しかし、地山の変化、工程遅延、安全リスク、品質異常、発注者協議への対応は、人間の判断が必要です。

つまり、トンネル工事の機械化は、現場監督の仕事をなくすものではありません。
現場監督の仕事を、より高度な判断と管理へ移していくものです。

省人化は若手施工管理にとってチャンスになる

山岳トンネル工事の機械化は、若手施工管理者にとっても大きなチャンスです。

従来の建設現場では、経験豊富なベテランの勘や段取りに依存する場面が多くありました。
もちろん経験は今後も重要です。
しかし、機械化・ICT化が進むことで、若手でもデータやシステムを活用しながら現場を学びやすくなります。

たとえば、穿孔データ、出来形データ、試験記録、機械の稼働情報などが残るようになれば、若手は「なぜこの施工になったのか」を後から振り返りやすくなります。

これは教育にも役立ちます。

若手にとってのメリット

  • 危険な作業に直接入る場面を減らせる
  • データを見ながら施工手順を学べる
  • 品質管理の根拠を理解しやすい
  • 機械やICTに強い世代として活躍しやすい
  • トンネル施工管理という専門性を早く身につけられる

一方で、若手が注意すべき点もあります。

機械やICTがあるからといって、地山の変化や現場の危険を見なくてよいわけではありません。
むしろ、データに頼りすぎず、現場で何が起きているかを理解する姿勢が必要です。

これからの若手施工管理者には、現場を見る力とデータを読む力の両方が求められます。

まとめ:トンネル施工管理は「危険作業をなくす管理」へ進んでいる

東急建設が発表したロックボルト工の省人化・省力化技術パッケージは、山岳トンネル工事の施工管理に大きな示唆を与えています。

作業編成人員を約40%削減し、切羽内への立ち入りを不要にする運用を確立したことは、担い手不足への対応であると同時に、安全性向上の取り組みでもあります。

これからのトンネル施工管理では、次のような考え方が重要になります。

  • 危険な場所に人を入れない
  • 機械とICTで作業を省人化する
  • 省人化しても工程・品質管理を疎かにしない
  • データを活用して出来形・品質を記録する
  • 機械トラブルを前提に工程を考える
  • 若手が機械化・ICT化に対応できるよう育成する

トンネル工事は、人が入らない時代へ向かっているのか。
答えは、すべての作業から人が消えるという意味ではありません。

危険な場所に人を入れず、人はより安全で高度な判断を担う方向へ進んでいるということです。

施工管理者の役割も、現場で人を動かすだけではなく、機械・データ・工程・安全・品質を統合して管理する仕事へ変わりつつあります。

 

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