高さ60m超の煙突の約4割が損傷・劣化!国交省調査から考える構造物の安全対策

全国の高い煙突の約4割で、損傷や劣化が確認されたことが明らかになりました。
2026年10月23日、国土交通省は、高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突を対象とした全国調査の結果を公表しました。
調査では、全国に444本の対象煙突が確認され、そのうち180本で損傷・劣化が見つかったとされています。
さらに、損傷・劣化が確認された煙突のうち60本については、調査時点で対策の予定がないと回答されていました。
今回の調査は、2026年に発生した熊本地震で煙突の倒壊被害が生じたことを受けて実施されたものです。
こうした結果は、煙突に限らず、既存構造物の点検や維持管理の重要性を改めて考えるきっかけとなっています。
本記事では、国土交通省の調査結果と今後の対応を整理するとともに、構造物の劣化が引き起こすリスクや、施工管理者が確認しておきたい安全対策について解説します。
高さ60m超の煙突444本を調査!約4割で損傷・劣化を確認

国土交通省は2026年10月23日、高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突について、全国調査の結果を公表しました。
調査は、同年の熊本地震で発生した煙突倒壊被害を踏まえ、関係省庁と連携して実施されたものです。
対象となった煙突は、工場や廃棄物処理施設などに設置されたものです。
全国444本のうち180本に損傷・劣化
調査結果を整理すると、次のようになります。
| 調査項目 | 本数 | 全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 調査対象の煙突 | 444本 | 100% |
| 損傷・劣化あり | 180本 | 約40.5% |
| 損傷・劣化なし | 256本 | 約57.7% |
| 点検実施に向けて調整中 | 8本 | 約1.8% |
※割合は国土交通省の公表数値から算出した概数です。
今回、損傷・劣化が確認された煙突は180本で、全体の約4割に相当します。
一方、256本では損傷・劣化が確認されず、8本については点検実施に向けた調整が行われている段階でした。
ただし、損傷・劣化が確認された180本すべてに、直ちに倒壊する危険があると判定されたわけではありません。
今回の調査は損傷・劣化や補強の状況などを把握するものであり、すべての煙突について詳細な耐震診断を実施し、安全性を一律に判定したものではない点に注意が必要です。
損傷・劣化がある180本のうち60本は対策予定なし
今回の調査では、損傷・劣化が確認された180本について、対策予定の有無も整理されています。
- 対策予定あり:120本
- 対策予定なし:60本
つまり、損傷・劣化が確認された煙突の3分の1について、調査時点では対策の予定がないと回答されていました。
これは、直ちに60本が危険な状態にあることを意味するものではありません。
しかし、損傷の程度や構造物への影響を適切に評価し、必要な対応を検討することが重要であるといえるでしょう。
なぜ全国の煙突調査が実施された?熊本地震での倒壊被害が背景
今回の全国調査のきっかけとなったのは、2026年に発生した熊本地震です。
この地震では、熊本県八代市にある日本製紙株式会社八代工場で、高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突が倒壊する被害が発生しました。
国土交通省は、この被害を踏まえ、同様の構造を持つ煙突の状況を確認する必要があると判断しました。
2026年8月18日から全国調査を実施
国土交通省は関係省庁と連携し、2026年8月18日から対象事業所などへの調査を開始しました。
調査では、主に次の情報の報告が求められました。
- 煙突の所有者
- 所在地
- 高さ
- 築造年月
- 損傷・劣化の状況
- 補強の実施状況
こうした情報を集めることで、全国に存在する類似構造物の状態を把握し、必要な安全対策につなげることが目的とされています。
なぜ高さ60mを超える煙突が対象になった?
今回の調査対象が高さ60m超の煙突に限定されたことには、理由があります。
国土交通省によると、熊本地震で倒壊した煙突が高さ60mを超える鉄筋コンクリート造だったことに加え、高い煙突ほど地震時の揺れ方が複雑になることが背景にあります。
また、高さ60mを超える煙突については、2007年に耐震基準が強化された経緯も考慮されています。
ただし、高さ60m以下の煙突や鉄筋コンクリート造以外の煙突に、劣化や地震被害のリスクがないという意味ではありません。
国土交通省は、今回の倒壊原因の分析結果を踏まえ、調査対象外の煙突についても必要に応じて安全確保策を検討する考えを示しています。
煙突の損傷・劣化にはどのようなリスクがある?
鉄筋コンクリート造の煙突は、長期間にわたって風雨や地震などの影響を受ける構造物です。
さらに、煙突の用途によっては、内部を通過する排ガスや熱などの影響も考慮する必要があります。
ここでは、一般的に注意したい劣化現象を紹介します。
なお、以下は鉄筋コンクリート造煙突で想定される主な劣化リスクであり、今回の調査で180本すべてに同じ症状が確認されたという意味ではありません。
① コンクリートのひび割れ
鉄筋コンクリート造の構造物では、乾燥収縮や温度変化、外力などによってひび割れが発生する場合があります。
ひび割れが生じたからといって、必ずしも構造上の安全性が大きく低下しているとは限りません。
しかし、ひび割れの位置や幅、深さ、発生原因によっては注意が必要です。
特に、ひび割れが進行している場合や、雨水などが内部に浸入する状態では、鉄筋の腐食につながる可能性があります。
そのため、ひび割れの有無だけでなく、状態や経年変化を確認することが重要です。
② 鉄筋の腐食
鉄筋コンクリート造の煙突では、内部の鉄筋が腐食するリスクもあります。
コンクリートの中性化や水分の浸入などによって鉄筋の腐食が進むと、鉄筋が膨張し、周囲のコンクリートにひび割れや剥離が生じる場合があります。
腐食の進行によって鉄筋の断面が減少すれば、構造性能に影響する可能性もあります。
鉄筋の露出や錆汁、コンクリートの浮きなどが見られる場合は、専門的な確認が必要です。
③ コンクリートの剥離・剥落
コンクリートの劣化が進むと、表面の一部が剥がれ落ちることがあります。
特に高い位置からの剥落は、周囲で働く作業員や設備、建築物などに被害を与えるおそれがあります。
煙突本体の倒壊リスクとは別に、落下物による事故を防止する観点からも対策が重要です。
④ 煙突内部の腐食・劣化
煙突では、外側から確認できる損傷だけでなく、内部の状態にも注意する必要があります。
排ガスの性質や温度、結露などの条件によっては、内側の保護材やコンクリートに劣化が生じる場合があります。
内部の損傷は地上からの目視だけでは把握しにくいため、必要に応じた専門的な点検が重要になります。
国交省はどう対応する?応急補修の要請と原因分析を実施

今回の調査結果を受けて、国土交通省は関係省庁と連携し、損傷・劣化が確認された煙突への対応を進めています。
損傷・劣化が確認された180本に応急補修を要請
国土交通省は、各事業を所管する省庁などを通じて、損傷・劣化が確認された煙突の所有者に対し、応急的な補修の取組を要請する方針を示しました。
今後は、各省庁が取組状況をフォローアップする予定です。
また、国土交通省は、特定行政庁に対して調査結果や応急的な補修方法を周知しています。
特定行政庁には、事業者による対応状況の把握や、補修方法に関する相談への対応、必要な指導などが求められています。
損傷の種類に応じた応急補修方法も提示
国土交通省は、今回の調査結果とともに、煙突の損傷・劣化に対する応急的な補修方法の例も公表しています。
主な内容は、次のとおりです。
| 損傷・劣化の内容 | 国交省が示した補修方法の例 |
|---|---|
| コンクリートのひび割れ | 樹脂による充填など |
| ひび割れが多数発生している場合 | 樹脂充填と補強バンドの併用など |
| 鉄筋の腐食や中性化への対応 | 耐酸性・耐熱性を持つモルタルや仕上げ材など |
| 煙突内部の保護材の劣化 | 保護材の補修・更新など |
| 煙突頂部の著しい腐食 | 損傷部分の撤去と改修など |
ただし、これらはあくまで国交省が示した補修方法の例です。
損傷の原因や構造物の状態を確認せずに、表面的な補修だけを行えば安全性が確保されるというものではありません。
具体的な工法は、構造物の状態や補修目的に応じて、専門家が判断する必要があります。
倒壊原因の分析結果を踏まえた対策も検討
今回の煙突倒壊被害については、国土交通省などが有識者委員会を設置し、原因分析を進めています。
2026年10月24日時点では、倒壊原因についての検証が継続されています。
そのため、今回確認された劣化現象が、熊本地震での煙突倒壊の直接的な原因だったと断定することはできません。
今後、原因分析の結果がまとまれば、それを踏まえた追加の安全対策が示される可能性があります。
施工管理者が確認しておきたい構造物の安全対策5選
今回のニュースは、煙突を所有する事業者だけでなく、既存構造物の補修工事や維持管理に携わる施工管理者にとっても参考になります。
施工管理者が現場で意識したいポイントを整理します。
1. 構造物の点検履歴を確認する
既存構造物の補修・改修工事に携わる場合、まず確認したいのが過去の点検履歴です。
例えば、次のような情報を確認しておくと、構造物の状態を把握しやすくなります。
- 建設・築造された時期
- 過去の点検結果
- ひび割れや腐食の発生履歴
- 補修・補強工事の実施状況
- 過去に受けた地震などの影響
- 未対応となっている損傷の有無
構造物の状態を判断する際は、現在の損傷だけでなく、これまでの維持管理状況を確認することが大切です。
2. 損傷の程度に応じて専門家と連携する
施工管理者が現場でひび割れや腐食などを確認した場合、その場で構造上の安全性を断定することは避ける必要があります。
特に、既存構造物の構造性能に関係する損傷については、設計者や構造の専門家などとの連携が重要です。
損傷の位置・範囲・進行状況などを記録し、必要な調査や補修方針の検討につなげましょう。
3. 高所作業と落下物への対策を徹底する
煙突の点検や補修では、高所での作業が発生する場合があります。
そのため、構造物そのものの安全性だけでなく、点検・補修作業中の安全確保も重要です。
主な確認項目は次のとおりです。
- 足場や作業床の安全性
- 墜落制止用器具の適切な使用
- 作業場所への安全な昇降方法
- 工具や資材の落下防止
- 地上作業員や周辺設備への影響
- 強風などの気象条件
- 緊急時の連絡・救助体制
高所作業では、事故が発生した場合の被害が大きくなるおそれがあります。
補修工事そのものの品質だけでなく、施工中の安全管理を徹底しましょう。
4. 損傷が確認された場合の立入管理を検討する
高所にある構造物で、コンクリートの剥落や部材の落下などが懸念される場合は、周辺の安全確保を検討する必要があります。
状況に応じて、所有者や専門家と協議し、立入制限や通行動線の変更などを行うことが考えられます。
危険性が高いと判断される場合は、施設の使用方法や作業の継続可否についても、関係者で速やかに協議することが重要です。
ただし、必要な立入制限範囲や対策は、構造物の高さや状態、周辺環境によって異なります。
一律の距離や対応方法を決めつけず、個別の条件に応じて判断しましょう。
5. 補修後も継続して状態を確認する
構造物の補修では、工事が完了したことだけで管理を終えないことが大切です。
補修した箇所の状態や、新たなひび割れの発生などを継続的に確認することで、変化を把握しやすくなります。
また、応急補修と、構造性能を確保するための本格的な改修は、目的が異なる場合があります。
応急的な対応を実施した場合でも、必要に応じて追加調査や耐震診断などを検討することが重要です。
煙突以外の構造物にも共通する老朽化対策の重要性

今回の調査は、高さ60m超の鉄筋コンクリート造煙突を対象としたものです。
しかし、既存構造物の状態を継続的に確認し、必要な補修・補強につなげるという考え方は、ほかの構造物にも共通します。
橋梁やトンネルなどでも維持管理が重要
橋梁やトンネル、擁壁などの構造物でも、経年劣化や外部環境の影響によって損傷が生じる場合があります。
これらの構造物では、損傷が進行してから対応するだけでなく、点検結果を踏まえて適切な時期に補修・更新を行うことが重要です。
構造物の維持管理では、状態の把握から対策の実施までを継続的に行う必要があります。
点検結果を補修計画に反映することが大切
点検を行っても、その結果が補修計画や安全対策につながらなければ、劣化を放置してしまうおそれがあります。
例えば、点検結果を次のように整理しておくと、対応状況を管理しやすくなります。
- どこに損傷があるのか
- どの程度の損傷なのか
- 追加調査が必要か
- 応急対応が必要か
- 補修・補強の予定はあるか
- 対応が完了したか
構造物の安全を維持するためには、点検・評価・対策・再確認という一連の流れが重要です。
国交省の煙突調査に関するよくある質問
Q1. 全国の煙突の約4割が損傷しているということですか?
今回の約4割という数値は、国土交通省が調査した高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突444本に対する割合です。
国内にあるすべての煙突を対象とした割合ではありません。
Q2. 損傷・劣化が確認された180本は、すべて倒壊の危険がありますか?
いいえ。
今回の調査で損傷・劣化が確認されたことと、直ちに倒壊する危険があることは同じではありません。
構造上の安全性については、損傷の種類や程度、構造物の状態などを踏まえ、必要に応じて専門的な評価を行う必要があります。
Q3. 国土交通省は損傷が確認された煙突にどのような対応を求めていますか?
国土交通省は関係省庁と連携し、損傷・劣化が確認された煙突の所有者に対して、応急的な補修の取組を要請しています。
また、今後は関係省庁による対応状況のフォローアップが予定されています。
Q4. 高さ60m以下の煙突は点検しなくても問題ありませんか?
いいえ。
今回の全国調査の対象外だったことは、安全性が確認されたことを意味しません。
高さ60m以下の煙突についても、構造や築造時期、使用環境、損傷状況などに応じた点検・維持管理が重要です。
Q5. 煙突の補修を行えば耐震性も確保できますか?
補修内容によって異なります。
ひび割れや表面の劣化を補修することと、地震に対する構造性能を確保することは、必ずしも同じではありません。
必要に応じて耐震診断などを行い、構造物の状態に応じた対策を検討することが重要です。
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まとめ|煙突の損傷・劣化調査をきっかけに構造物の安全管理を見直そう
2026年10月23日、国土交通省は、高さ60mを超える鉄筋コンクリート造の煙突に関する全国調査の結果を公表しました。
今回の重要なポイントは、次の5つです。
- 全国444本の対象煙突のうち、180本(約4割)で損傷・劣化が確認された
- 損傷・劣化が確認された180本のうち、60本は調査時点で対策予定がなかった
- 調査は2026年の熊本地震で発生した煙突倒壊被害を踏まえて実施された
- 国土交通省は関係省庁と連携し、応急補修の要請や対応状況のフォローアップを進める
- 構造物の安全を維持するには、点検結果を適切な評価と補修・補強につなげることが重要
今回の調査結果は、損傷・劣化がある構造物を把握することの重要性を示しています。
一方で、損傷が確認されたことと、直ちに構造物の安全性が失われていることは同じではありません。
大切なのは、損傷の状態を正しく把握し、必要に応じて専門家と連携しながら、適切な安全対策を講じることです。
施工管理者も、既存構造物の維持管理や補修工事に携わる際には、点検履歴や損傷状況を確認し、作業中の安全確保と適切な施工管理につなげていきましょう。











