公共工事で「グリーン鉄」導入へ。これから施工管理者もCO₂を管理する?
建設現場で鋼材を管理するとき、施工管理者が確認するものといえば何でしょうか。
- 材質。
- 寸法。
- 数量。
- ミルシート。
- 納期。
これまでは、こうした「品質」「規格」「工程」に関する情報が中心でした。
しかし今後、そこに新しい項目が加わるかもしれません。
それが、「この鋼材をつくるまでに、どれだけCO₂を排出したのか」という情報です。
国土交通省は2026年7月31日、製造時のCO₂排出量を削減した鋼材「グリーン鉄」を、国が発注する直轄土木工事で試行的に活用すると発表しました。
鋼矢板や橋梁用厚板などを対象に、グリーン鉄の流通やGXとしての価値、さらに製造段階を含めたCO₂排出量の調査を実施します。
国は2030年以降の公共工事での本格活用も見据えています。
建設業でも、これまでの「完成した構造物を管理する」という仕事から、
「その構造物をつくる過程でどれだけCO₂を出したか」まで管理する時代
が近づいているのかもしれません。
今回は、公共工事で試行が始まった「グリーン鉄」とは何なのか、そして今後、施工管理の仕事にどのような影響が考えられるのかを見ていきます。
そもそも「グリーン鉄」とは?
グリーン鉄とは、大きくいえば製造時のCO₂排出量を削減した鋼材です。
ただし、少し注意が必要です。
現在、「ここまでCO₂を減らした鉄だけをグリーン鉄と呼ぶ」といった世界共通の明確な定義が確立しているわけではありません。
資源エネルギー庁も、現時点では国内外でさまざまな形のグリーン鉄が販売されており、明確な定義はないと説明しています。
政府の「GX推進のためのグリーン鉄研究会」では、鉄鋼メーカーが実際に排出削減に取り組み、それによって発生したコストも含めて環境価値を持つ鋼材を「GX推進のためのグリーン鉄」と位置付け、市場形成を進めています。
では、なぜ今「鉄」なのでしょうか。
鉄鋼業は製造業のCO₂排出量の約35%

鉄は、
- 橋梁
- 鉄骨
- 鋼矢板
- 鉄筋
- 道路構造物
- 河川構造物
など、建設現場のあらゆる場所で使用されています。
その一方、鉄をつくるには大量のエネルギーが必要です。
国土交通省によると、鉄鋼業は日本の製造業のCO₂排出量のうち約35%を占めています。
特に高炉による製鉄では、鉄鉱石から酸素を取り除く「還元」の工程などで大量のCO₂が発生します。
そのため鉄鋼業は、脱炭素化が難しい産業の一つとされています。
現在は、
- 水素を活用した製鉄
- 製造設備の省エネルギー化
- 電炉の活用
- 再生可能エネルギーの利用
など、さまざまな方法によってCO₂削減が進められています。
しかし、新しい製鉄設備や技術を導入するには大きなコストがかかります。
そこで課題になるのが、
「CO₂を減らしてつくった鉄を、誰が買うのか」
という問題です。
なぜ国が公共工事でグリーン鉄を使うのか
企業が多額の投資をして低炭素な鋼材をつくっても、通常の鋼材より価格が高く、誰も購入しなければ普及しません。
そこで国がまず公共工事で利用し、グリーン鉄の初期需要をつくろうとしています。
国土交通省は今回の試行について、
政府が率先して公共調達を進めることで初期需要を創出し、GX価値が適切に評価される市場を形成することが重要
としています。
つまり今回の目的は、単に
「環境に優しい鉄を使ってみよう」
というものではありません。
実際の建設工事で使ってみることで、
- グリーン鉄はどのように流通するのか
- 従来鋼材との価格差はどうなるのか
- CO₂削減という価値をどう評価するのか
- 製造から施工までCO₂情報をどう伝えるのか
といった実務上の課題を確認する意味があります。
すでに国道工事で試行が始まる
今回のグリーン鉄試行工事では、鋼矢板や橋梁用厚板などの鋼材が対象となります。
国土交通省が公表している一例が、北海道開発局発注の
「一般国道5号 仁木町銀山大橋上部中央工事」
です。
今後も2026年度中に順次、試行対象を拡大するとしています。
そして重要なのが、その先です。
国は今回の試行で知見を蓄積し、2030年以降の公共工事での本格活用につなげる方針を示しています。
つまりグリーン鉄は、実験室だけの話ではなくなっています。
公共工事の実際の資材として使われ始めたのです。
建設現場の脱炭素は「建機」だけではない
建設現場のCO₂削減というと、
「電動ショベル」
「燃費の良い重機」
「アイドリングストップ」
などを想像する人も多いでしょう。
しかし現在、国が進めている脱炭素化はそれだけではありません。
国土交通省は2026年7月31日、「土木工事の脱炭素アクションプラン」を改定しました。
主な柱は、
①建設機械の脱炭素化
②建設資材(コンクリート・鋼材)の脱炭素化
③その他建設技術の脱炭素化
です。
今回、新たに鋼材の脱炭素化に関するロードマップも追加されました。
つまりこれからは、
「現場でどれだけ燃料を使ったか」だけではなく、「使った材料がつくられるまでにどれだけCO₂が出たか」
も建設工事の脱炭素を考えるうえで重要になります。
「CFP」という言葉を施工管理者も見るようになる?
ここで一つ、今後建設業でも目にする機会が増えそうな言葉があります。
それが、
CFP(カーボンフットプリント)
です。
CFPとは、製品やサービスについて、原材料調達から製造、輸送、使用、廃棄などの各段階で発生する温室効果ガスをCO₂換算して把握する考え方です。
今回のグリーン鉄試行工事でも、製造段階を含めたCO₂排出量について調査が行われます。
これまで鋼材を選ぶときには、
「SS400なのか」
「SM490なのか」
「寸法は合っているか」
「必要な強度を満たしているか」
といった性能や規格が重要でした。
今後はそこに、
「この鋼材のCO₂排出量はいくらなのか」
という情報が加わる可能性があります。
これから施工管理者もCO₂を管理するのか?
では、明日から施工管理者が現場で一つひとつCO₂を計算しなければならないのでしょうか。
現時点では、そこまで決まっているわけではありません。
今回もあくまで試行工事です。
国はグリーン鉄の流通やGX価値、CFPの算定などについて調査している段階です。
ただし、建設工事全体のCO₂を「見える化」する流れはすでに始まっています。
国土交通省・国土技術政策総合研究所は、「インフラ分野における建設時のGHG排出量算定マニュアル案」を作成しています。
これは、施工段階で発生する温室効果ガスや、脱炭素技術を導入した場合の削減効果を統一的な考え方で算定しようとするものです。
さらに2026年の「土木工事の脱炭素アクションプラン」でも、工事ごとのGHG排出量の見える化が検討されています。
この流れが進めば、施工管理者の仕事にも少しずつ関係してくる可能性があります。
施工管理の仕事はどう変わる?

将来的に公共工事で低炭素資材の利用が本格化した場合、施工管理者が関係しそうな仕事を考えてみます。
1. 資材の「環境情報」を確認する
現在でも施工管理では、使用材料について、
- 規格
- 品質証明
- ミルシート
- 数量
- 製造者
などを確認します。
グリーン鉄が本格的に普及すれば、これに加えて、
- CO₂排出量
- CFP
- CO₂削減量
- グリーン鉄であることを示す情報
などを確認する場面が生まれる可能性があります。
つまり材料管理が、
「品質を証明する」だけでなく「環境価値も証明する」仕事
へ広がっていくかもしれません。
2. 資材のトレーサビリティが重要になる
例えば設計上はグリーン鉄を使うことになっていても、
実際に現場へ搬入された鋼材が対象製品なのか。
どこで製造されたのか。
どの数量がその工事に使われたのか。
こうした情報が分からなければ、工事全体のCO₂削減量を正確に評価できません。
そのため将来的には、資材の製造から現場搬入、施工まで情報をつなぐトレーサビリティも重要になると考えられます。
これはミルシートや材料承認など、現在施工管理者が行っている資材管理の延長線上にある仕事です。
3. 工事全体のCO₂を見る可能性もある
さらに先には、
「この工事でCO₂を何トン排出したのか」
を把握するようになる可能性もあります。
例えば、
- 建設機械の燃料
- 資材の製造
- 資材の運搬
- コンクリート
- 鋼材
- 施工方法
など、それぞれの排出量を積み上げれば工事全体のGHG排出量を算定できます。
国もすでに工事ごとのGHG排出量の見える化を検討しています。
施工管理がこれまで管理してきた
Q:Quality(品質)
C:Cost(原価)
D:Delivery(工程)
S:Safety(安全)
E:Environment(環境)
のうち、「E」の中身がより具体的な数字になっていくともいえます。
CO₂が「工事を評価する数字」になる可能性
これまで公共工事では、
工期を守ったか。
品質は適切だったか。
安全に施工したか。
といったことが重要な評価項目でした。
今後はそこに、
「どれだけ環境負荷の少ない工事をしたか」
という評価軸が強くなる可能性があります。
実際、国土交通省は直轄工事を先行させることで、地方公共団体などを含む建設現場全体の脱炭素化をけん引する方針です。
国の直轄工事で始まった制度や施工方法が、その後自治体工事や民間工事へ広がるケースは珍しくありません。
そのためグリーン鉄についても、
直轄工事で試行
↓
公共工事で活用拡大
↓
民間工事にも普及
という流れになる可能性があります。
「安い鋼材」だけで選べなくなる?
ここで難しい問題もあります。
グリーン鉄を製造するためには、新しい設備やエネルギー、脱炭素技術への投資が必要です。
そのため一般的な鋼材よりコストが高くなる可能性があります。
資源エネルギー庁も、鉄鋼の脱炭素化には多額の設備投資が必要であり、そのコストが鋼材価格に反映されることを課題として挙げています。
これまでは、
「必要な品質を満たしたうえで、できるだけ安い資材を調達する」
ことが基本でした。
しかし脱炭素化が進めば、
価格+品質+CO₂
という3つの視点で資材を選ぶ場面が出てくるかもしれません。
建設資材の「価値」の考え方そのものが変わる可能性があります。
グリーン鉄はまだ「始まったばかり」
ただし、グリーン鉄が来年からすべての公共工事で義務化されるわけではありません。
今回の取り組みはあくまで試行段階です。
グリーン鉄についても世界共通の明確な定義が完全に固まっているわけではなく、
価格差を誰が負担するのか。
環境価値をどう評価するのか。
製造した鋼材とCO₂削減量をどう結び付けるのか。
サプライチェーンの中で情報をどう伝えるのか。
など、整理すべき課題があります。
だからこそ、国は実際の公共工事で試行しているのです。
まとめ|施工管理が「CO₂を見る仕事」になる日
2026年度、国土交通省の直轄土木工事でグリーン鉄の試行利用が始まりました。
国は2030年以降の公共工事での本格活用を見据えています。
これは単に、
「環境に優しい鉄が登場した」
というニュースではありません。
建設業の資材管理そのものが変わり始めていることを示しています。
これまで施工管理者が確認してきたのは、
- 品質。
- 寸法。
- 数量。
- 工程。
- 安全。
そこに将来、
「CO₂排出量」
という数字が加わる可能性があります。
もちろん現時点で、施工管理者がすべてのCO₂を自ら計算する制度になったわけではありません。
しかし国はすでに工事単位でGHG排出量を見える化する仕組みを検討しています。
建設機械を動かす。
コンクリートを打つ。
鉄を組む。
という施工だけを見るのではなく、
「その材料はどうやってつくられたのか」
「現場へ来るまでにどれだけCO₂が発生したのか」
「工事全体としてどれだけ環境負荷を減らせたのか」
まで管理する。
グリーン鉄の公共工事での試行は、施工管理がそんな仕事へ変わっていく最初の一歩なのかもしれません。
参考資料
国土交通省「CO2排出量を削減した鋼材の試行工事を開始!」
国土交通省「国土交通省土木工事の脱炭素アクションプランを改定!」
国土交通省「建設分野のカーボンニュートラル」
国土交通省・国土技術政策総合研究所「インフラ分野における建設時のGHG排出量算定マニュアル案」
資源エネルギー庁「鉄鋼業で進むGX―『グリーン鉄』普及へ政府も支援」
経済産業省「GX推進のためのグリーン鉄研究会」
